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国際活動センターからのお知らせ (2003年11月)

〈米国〉

CAFC判決:医薬特許の解釈に当たり、患者が了知していることを要するとの解釈は正しい

〈概要〉
 悪性貧血を「治療または予防」する方法であって葉酸およびビタミンB12をそれを必要としているヒトに投与する方法に関する特許は、その症状を処置する必要があることをそのヒトが知っていることを要する、と正しく解釈されたと、米国連邦巡回裁判所(CAFC)は判示した。

  CAFCは、葉酸およびビタミンB12を含有して悪性貧血以外の症状を処置する栄養補助食品をOTC薬(医師の処方箋なしで販売購入できるいわゆる店頭販売薬)として被告が販売することは、購買者に対する侵害教唆には当たらないことを認め、非侵害であるとのサマリー・ジャッジメント(略式判決)を支持した。本件特許はそのクレームに「それを必要としているヒトに」の用語を加えることによりおよそ20年の出願経過を経て許可されており、そのことはクレーム解釈上その用語が重要であることを示している、とCAFCは述べている。

非侵害との判決に至る重要な争点
 Christian J. Jansen Jr.は、巨赤芽球性貧血(即ち、悪性貧血)を「治療または予防」する方法であって葉酸およびビタミンB12を「それを必要としているヒト」に投与する方法に関する特許(第4,945,083号特許)を保有している。この発明の目的は、葉酸を単独で用いて貧血を処置した場合に起こり得るビタミンB12欠乏のマスクを防止することにある。

 Rexall Sundown Inc.はOTC薬として栄養補助食品「Folic Acid XTRA」を販売しており、これは本件クレームの範囲内にある葉酸とビタミンB12とを含有しているが、そのラベルにはホモシステインの血中レベルを維持するためのものと記載されており、悪性貧血の処置のためとは記載されていない。

 Jansenは、Rexallを侵害教唆あるいは幇助に当たるとして訴えた。インディアナ州南部地区の米国地方裁判所Daniel Tinder判事は、非侵害であるとのRexallによるサマリー・ジャッジメントの請求を認めた。地方裁判所は、侵害というためには、「悪性貧血を治療または予防する」なる用語を、ヒト対象者が悪性貧血を治療または予防する意思をもって化合物を摂取しなければならないことを要すると解釈し、ここではRexallの購買者にそのような意思は認められない、と判断した。

 そこで、Jansenは上訴した。

支持されたクレーム解釈
 Jansenは、クレーム解釈に意思を要求するのは法律違反であり、クレームの通常の意味や審査経過に照らせば、地方裁判所によるそのようなクレーム解釈は誤っていると主張した。Jansenは、Rapoport v. Dement, 254 F.3d 1053, 59 USPQ2d 1215 (Fed.Cir.2001) (62PTCJ224, 7/13/01)に依拠して直接侵害者は意図的にクレーム方法を実施しなければならないと認定した地裁判断に対し、異義を唱え、さらにJansenは、Rapoportは疾患を予防する方法ではなかったので本件とは区別される、とも主張した。Jansenはまた、Rexallの製剤処方およびラベルは、Rexallの購買者が直接侵害していることの状況証拠になると主張した。

 CAFCはJansenによるこれらの主張を退けた。クレーム中の用語を通常の意味で解釈すれば、本件の処置方法は「それを必要としているヒト」に対して実施されなければならず、そして悪性貧血の「治療または予防のために」使用されなければならない、とAlan Lourie判事は述べた。

 Alan Lourie判事はさらに、ここでの争点は、このようなヒトが悪性貧血を治療または予防する必要があることを知らなければならないか否かであると述べ、本件をRapoportに準えた(Rapoportでは、睡眠時無呼吸を処置するためのクレームされた方法は、クレームの前段(プリアンブル)に記載されている目的を達成する意思をもって本方法は実施されなければならないと解釈されている)。また、Alan Lourie判事は次のように説示した:

 「第4,945,083号特許(083号特許)におけるRapoportと極めて近似した用語は同じ手法により解釈するのが妥当である。Rapoportおよび本件はともに、クレームのプリアンブルにおいて方法の目的を明示し、クレームの本文では方法が「それを必要としている」ヒトに対して実施されるべきことを規定している。そして、ともに、「必要としている」ヒトまたは患者なるクレーム中の用語は、目的を述べているプリアンブルに意味内容を与えている。即ち、ここでのプリアンブルは、希望または認識されているかどうか分からないような単なる効果の言及ではない。そうではなく、ここでのプリアンブルは方法を実施しなければならないとの意図を伴う目的の言及である。「治療または予防」の用語または「それを必要とするヒトに」の用語のいずれかがクレームに記載されていない場合、我々が同じ結論に至るか否かをここで述べる必要はない。しかし、統一的には、上記地裁および本CAFCがともに至ったクレーム解釈を行うべきである。」

 CAFCは、このクレーム解釈は審査経過からも支持されると述べた。悪性貧血を「治療または予防する」なる用語および「それを必要としているヒトに」なる用語は、これらの用語を付加しなかったために繰返し特許を得るのに成功しなかった20年を経た後にクレームに付加され、それにより特許が許可されている。Bryson判事は、これら用語の加入によって特許が認められていることからそれらの用語を重視し、さらに、これらの用語が同じ拒絶理由を解消するために同時に付加されていることから、「それを(必要)」は悪性貧血の治療または予防を意味するものとして両用語を解釈すべきであると述べた。

 最後に、Bryson判事は、「必要としている」なる用語はそれを付加した理由を勘案してその意味を理解しなければならないと述べている。Bryson判事は次いで以下のように説示している:

 「言い換えれば、Jansenは特定の症状の治療または予防を必要としているヒトにおける当該症状を治療または予防する発明に自身のクレームを限定したのであるから、クレームされた用量でのクレームされたビタミンの投与であっても(悪性)貧血を治療または予防する以外の目的をもってする投与は、クレームされた方法の実施には当たらない。083号特許のクレームが、(悪性)貧血の治療または予防が必要であるとの認識を持ったヒトに葉酸およびビタミンB12の組合せを投与しなければならないことを意味する、と解釈するのは正しい。」

侵害は立証されていない
 上記のようなクレーム解釈を前提として、CAFCは、Rexallが購買者に対して083号特許の直接侵害を教唆しているとする、クレームの要件事実についての真正な争点をJansenは主張していない、と結論した。Jansenによる侵害の構成理論は、悪性貧血を治療または予防することが必要でないことを肯定的に知らない者までも、「それを必要としている」とみなすという、誤ったクレーム解釈にそもそも基づいている、とBryson判事は説示している。

 Jansenは、Rexallの製剤は葉酸およびビタミンB12を083号特許のクレームに含まれるほどに高用量に含んでおり、またRexallのラベルには「葉酸はビタミンB12欠乏をマスクするおそれがあるため、葉酸とともにビタミンB12を摂取するのは特に重要である」と記載され、これらは、Rexall製品の購買者の中には、Rexall製品を摂取することにより悪性貧血を治療または予防しようと意図する者が存在することを示す証拠であると主張した。しかし、上訴裁判所はこのJansenの主張を退けた。Bryson判事は、Jansenは、Rexallの購買者が製品を摂取して貧血を処置することを意図的に行うことがあり得るという理論的可能性を単に示しているに過ぎないと述べ、それでは要件事実についての真正な争点の存在を主張するには不充分であると付加えた。Bryson判事は事件概要について以下のように説示している:

 「Rexall製品のようなOTC薬の使用と、医師の処方箋による医薬の使用とは全く異なる。後者の場合、処方箋は診断結果の証拠を構成し、またそこに記載された目的のために医薬を使用する必要性が知られていることの証拠となる。Jansenは本件においてそのような証拠を示していない。Rexallの製品は、本製品がホモシステインの血中レベルを維持するために使用できると記載されたラベルが付されて販売されており、購買者は(悪性)貧血を治療または予防する必要性について必ずしも知っている訳ではない。JansenはRexall製品の購買者の中には本件クレーム要件を満たし得る者が存在するかもしれないことを推測しているに過ぎない。従って、Jansenが侵害を示す十分な証拠を提示していないとする地方裁判所の判断に誤りは無い。」

よって、原判決を維持する。


文責 高山裕貢

出典
BNA International Inc., " Patent, Trademark & Copyright Journal", ‘Drug Patent Was Properly Construed To Require Knowledge on Patient’s Part‘, Page 531-532, Volume 66, Number 1637, September 12, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)




〈米国〉

CAFC判決:継続出願の範囲は繰越した実施形態に限定されない

〈概要〉
 一部継続出願の範囲は、続いておこる特許出願に繰越した好ましい実施形態に限定されないと連邦巡回裁判所が8月12日に判決を下した(Cordis Corp. v. Medtronic AVE Inc., Fed. Cir., No. 02-1457, 8/12/03)。

 Johnson and Johnsonに対して陪審員が下した271ミリオンドルの賠償金の判決を覆す侵害なしとする判決を破棄し、下級裁判所へ差し戻すことで、裁判所は単にワイヤーメッシュなしの動脈ステンツに関する実施形態が親出願から繰越されていないからといって、動脈ステンツに関する特許がワイヤーメッシュなしの動脈ステンツに限定されることはないと判決した。被告の特許に曲がったワイヤーステンツを譲渡する言い回しを見出さずに、連邦裁判所は侵害なしの判決を取り消したが、特許法35USC§112の記述要求に基づいた下級裁判所の妥当な判決を支持した。

動脈ステンツ
 Cordis Corp.とJohnson and Johnsonは、動脈血管に対して拡張し、血流を改善する為に動脈を開いた状態で維持する冠状ステンツに関する特許(4,739,762と5,195,984)を保持している。先行技術のステンツは拡張した直径を予め定めていたので、その直径が小さ過ぎる場合は望ましい位置から拡散し、大き過ぎる場合は動脈を破裂させる。762出願はその親出願(特許番号4,733,665)の一部継続出願として提出された。762と984特許が有している全クレームは“本質的に一定の厚さを有し、複数の溝を形成する壁表面”を列挙している。

 Cordisは、特許侵害でMedtronic AVE Inc. 及びその他の企業(AVE)を訴えた。

 陪審員は、シヌソイドワイヤーリングを形成する溝を有するAVEのステンツが等価主義に基づいて主張されているクレームを侵害しているとし、Cordisに賠償金271ミリオンドルを支払うよう命じた。しかしながら、デラウェア州米国地方裁判所裁判長Sue L. Robinsonは、CordisがAVEのステンツが“plurality of slots formed therein”及び“substantially uniform thickness”の限定と同等であると主張することを禁じ、無効に関する法的判断を否定し、“substantially uniform thickness”の限定に関する文字通りの侵害に関して条件付の新規の公判をAVEに対して行うという法的判断を下した。

 Cordisは上訴し、AVEは反訴した。

クレームの範囲は、(親出願が)保持していた実施形態に限定されない。
 文字通り侵害のない簡略な判決を下す際に、地方裁判所は“slots formed therein”が先在する壁表面から材料を取り除くことにより製造された溝を必要とすると裁決した。連邦巡回裁判所はこの解釈を棄却した。溝は、材料の除去以外の手段によって、例えば、壁に組み込まれた開口を有する壁を構築する手段により壁表面に“formed”することができる、また“slots formed therein”は製造方法ではなく商品の物理的特性を示すと判事William C. Brysonは言及した。

 地方裁判所が“preferably, tubular member” を言及する762特許に対する判決を根拠とする一方で、762及び984特許の明細書は先在する壁表面から材料を除去することにより生成した開口部としての“slots formed therein”を明確にしていないと連邦裁判所は強調し、用語preferablyの使用は、文体が全体としての発明ではなく、好ましい実施形態を説明することが明らかであると判事は指摘した。

 裁判所は、特許権者は665の親出願から762特許の記述へ実施形態を開示し損ねているので、係争中の特許がワイヤーメッシュの実施形態をカバーできなかったと確信していないと示し、判事は以下のように詳述した。

 クレームを狭めることになるのでこの根拠を拒絶する。ワイヤーベントステンツを手放す如何なる文体も、特許は持ち合わせていないし、665特許の図1Aを762明細書の実施形態として含ませないことに特許権者が決定したという事実は、特許権者が曲がったワイヤーで構成した如何なるステンツも主張していなかったということを示唆しているわけではない。また、特許権者は、実施形態がCIPに付け加えられた限定を満たさないので、親出願からCIP出願へ特定の実施形態を繰越さないと選択することも可能である。しかしながら、この決定はCIPの範囲を繰越した好ましい実施形態に限定することにはならない。したがって、ステンツを形成する為にワイヤーが一部重複したワイヤーメッシュの実施形態を包含し損ねていることを、如何なる形式においてもワイヤーを曲げることにより生成される全ての実施形態を排除するようなクレームの構成を制限するべきだとするAVEの主張を拒絶する。

 加えて、訴訟手続の間にWiktor特許を特徴付ける984特許の発明者の陳述書は複数の合理的な解釈をすることができるが、溝を形成する為材料が取り除かれる先在する壁表面が不足している全ステンツを放棄することが明白でないし、曲がったワイヤーで作成したステンツを明確に放棄していない。同様に、762特許手続において“slots formed therein”の制限された解釈を支持するものはない。

 地方裁判所が762及び984特許におけるこの制限の解釈を誤ったと考え、連邦巡回裁判所はこの制限に対する事実無根な侵害の略式判決を棄却し、またその制限に基づいた同等の決定を棄却した。

記述の必要条件は満たされた
 反訴において、AVEは地方裁判所が、762特許が規則35§112の記述必要条件を満たしていないため無効であるとする陪審員の評決を覆すことを拒否したのは間違いであったと論じ、記述は完璧な深さを有する溝と半分の深さしかない溝との両方を可能にする用語“plurality of slots”の解釈のみを支持すると主張したが、地方裁判所の解釈は後者(半分の深さしかない溝)のみを可能にするというものだった。(Gentry Gallery Inc. v. Berkline Corp., 134 F.3d 1473, 45 USPQ2d 1498)

 判事Brysonはこの反訴に対し同意を示さず、クレームが溝の整頓か混合かを制限しないので、用語“plurality of slots”は多様な溝を意味し、溝の様式を意味するものではなくGentry Galleryとは識別できると示した。

 また、陪審員の有効性に関する評決が実質的な証拠に裏づけされたことに加え、AVEは明確に有罪を証明できるような証拠によって無効性を証明することができなかった為、裁判所は無効判決を保持せず、法律問題としての判決の否認を主張した。

 しかしながら、地方裁判所の侵害なしとする判決は覆され、この案件は下級裁判所に差し戻された。

文責 矢野壽一郎

出典
 BNA International Inc., " Patent, Trademark & Copyright Journal", ‘Scope of Continuation Application Is Not Limited to Embodiment Carried Forward‘, Page 480-481, Volume 66, Number 1635, August 22, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)

以上


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