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国際活動センターからのお知らせ (2003年12月)

〈米国〉

CAFC判決:明細書は、特許法第112条第6パラグラフの下、
対応する構造として明確にソフトウェアとリンクしなければならない。

〈概要〉
 もし、明細書自身がソフトウェアとその機能を明確にリンクしていないか、もしくは関連付けていないならば、第 112 条第 6 パラグラフの下、その機能を実施するための対応する構造として、コンピュータソフトウェアを当業者に対して開示していると特許は解釈されない、と連邦巡回裁判所( CAFC )で判決があった。

ブレインイメージング技術
 Medical Instrumentation and Diagnostics Corp. ( MIDCO )は、種々のソースからのイメージの重複と操作に供することにより、脳手術を助けるコンピュータを用いたシステムに関する 2 つの特許( 5,099,846, 5,398.684 )を有しており、したがって、脳の視覚化における精度を高めた。 MIDCO は、 Elekta AB を特許侵害で訴えた。

 カリフォルニア地方裁判所の Whaley 判事は、 MIDCO にその特許は無効ではないという部分的な略式判決を出した。

 陪審員の侵害と損害賠償とについての MIDCO に有利な評決に続いて、 Whaley 判事は、エレクタの申し立てを法律問題として否定した。エレクタは上訴した。

開示における焦点は構造を示さない
 Elektaは、地裁は、112条第6パラグラフの下、ソフトウェアをこのミーンズプラスファンクションの限定に対する相当する構成として含めたことにより誤っていると議論した。CAFCは、同意して以下のように述べた。

 特許権者が、クレームされた機能についての構造を明確にリンクまたは関連させなければならない義務は、特許権者にクレームを112条第6パラグラフの下、機能的表現で表現することを許した代償である。112条第6パラグラフは、特許権者にクレームされた装置における使用可能なすべての可能性のある構成を述べることを要求することなしに、特許クレームにおいて手段の表現を使用することを認めることを意図している。しかしながら、その便宜を利用するために支払われる対価は、書かれた表現とそれに等価なものにより特定される手段についてクレームを限定する。もし、特許権者がクレームされた機能に相当すると意図した構造について、明細書が不明確ならば、特許権者は対価を支払わず、明細書中のいかなる構造を参照することにより制限されない不明確な機能的用語によりクレームしようとしていることになる。それは法令の下容認できないことである。

 相当する構成として限定するため、特有の構造がクレームされた機能と明確にリンクされることを要求することは、発明は特定的に指摘されクレームされなければならないという112条第2パラグラフの要求によっても支持されるとClevenger判事は述べ、判例を挙げた。

 明細書は、イメージ変換機能としてフレームグラバとCVPを開示しているので、ここでは不明確性は問題ではない一方、変換機能としてソフトウェアを関連させないことは、その機能を実現する手段として特定の構造を指摘し、クレームしていないことになるとCAFCはコメントした。

 地方裁判所は、ソフトウェアと変換機能との間のリンクは、完全には不明確であると認めたけれども、通常の技術を有するソフトウェアプラグラマは、デジタル−デジタル変換プログラムを知っているというMIDCOの専門家による意見に依拠している。そのようなアプローチを批判して、Clevenger判事は以下のように述べた。「正確な問いかけは、特許の開示を見て、当業者が、デジタル−デジタル変換のソフトウェアを包囲するように開示を理解し、そのプログラムを実装することができるかどうかを決定することであって、単に当業者がそのソフトウェアプログラムを書けるか否かではない。」開示を見て、相当する構成を見出すことを要求するのは、112条第6パラグラフ自身から来るものであり、特許の開示と離れておりかつ関連のない当業者の知識を注目することは適当ではないとClevenger判事は主張した。

反対意見
 反対意見において、Newman判事は、特許明細書は、クレームにおける各機能を開示し、ソフトウェアは、これらのコンピュータ制御された機能を実行すると述べた。

 原告被告の双方は、デジタル−デジタル変換のソフトウェアルーチンはルーチン技術の範囲内であることに同意しており、多数意見は、ソフトウェアは明細書中に構造として開示されていないと見ているものの、明細書は開示された方法を教示するためのソフトウェアやプログラムの記載を必要とはしないと主張した。Newman判事は、当業者が、変換の標準プログラムを書くことができるならば、不当な実験等を行なうことなしで、十分に内容を理解できると議論した。

 さらに、Newman判事は、多数意見による判決は、致命的な欠陥が記述の中または実施可能要件中にあるか否かにつき不明確であるが、MIDCOは、裁判で両方の要求を満足したものであると議論した。多数意見は、コンピュータ化された変換がソフトウェアにより行なわれることを述べる以上のことを要求することを述べているわけで、Newman判事は、以下のような問いを発した。「この裁判は、0と1についての5フィートの棚を要求しているのであろうか?」


文責 酒井將行

参考文献
BNA International Inc., "Patent, Trademark & Copyright Journal", ‘Specification Must Clearly Link Software As corresponding Structure Under §112, 6‘, Page 578-580, Volume 66, Number 1639, September 26, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)





〈米国〉

CAFC判決:裁判所の誤りによってクレーム用語が特許明細書で引用された実施例に限定された事例

〈概要〉
 徐放性(sustained release)錠剤についてのグラクソ・ウエルカム特許に対する非侵害の略式判決を覆して、控訴裁判所は、下級裁判所がクレーム用語を特別なグレードまたは分子量に限定するように構成したことは誤りであると判断した。控訴裁判所は、グラクソ社も特許審査官も、徐放性にとって「特別なグレードが重要である」ことを表明していない点を指摘した。

徐放性錠剤
 グラクソ・ウエルカム社は、抗うつ剤ウエルブトリンSRと喫煙休止薬ジバンを製造している。同社は、これら製品の徐放性処方を販売している。これらは、活性成分である塩酸ブプロピオンを含んでいる。徐放性は、さほど頻繁な投与が必要とされないように、そして摂取時の発作を引き起こすことがあるブプロピオンのサージが回避されるように、ブプロピオンの医薬作用を延ばすものである。グラクソ社はまた、ブプロピオンに関連した特許(5,427,798)を所有している。

 アンドルクス製薬社は、定時間放出性(controlled release)医薬製品の生体学的等価性包括版を開発および製造している。同社は、ウエルブトリンおよびジバンの包括版の承認、並びにその製品が798特許を侵害しないか、その特許が無効であるとするパラグラフIVの証明を求めて、2件の簡易な新薬申請を提出した。グラクソ社は、アンドルクス社を798特許の侵害で訴えた。

 フロリダの南地区における米国地方裁判所の判事ウイルキーDファーガソンJr. は、アンドルクス社の略式判決申請を許可し、798特許は有効であるが、アンドルクス社のブプロピオン製品の包括版によっては侵害されていない、と判定した。

定時間放出性の剤
 控訴審で、グラクソ社は、地方裁判所のクレーム構成と侵害判定に挑んだ。これらは、定時間放出性の剤、即ち798特許で提唱されているヒドロキシプロピル・メチルセルロース(HPMC)に焦点を当てたものである。

 明細書は、HPMCを、「塩酸ブプロピオンを(薬品または活性成分として)含有した徐放性(SR)錠剤、好ましくは薬品放出速度を制御するためのヒドロキシプロピル・メチルセルロース(メソセル)を制御することを目指した」発明であると記載している。798特許のクレーム1はまた、「制御された徐放性(controlled sustained release)錠剤であって、25〜500mgの塩酸ブプロピオンおよびヒドロキシプロピル・メチルセルロースを含むもの」と規定している。 審査官が、全てのクレームは放出剤としてHPMCに限定されなければならない旨をグラクソ社に通知したところ、グラクソ社は、クレーム1を補正して、「前記錠剤は、1時間で約20〜40%間の、4時間で約50〜90%間の、そして8時間で約75%以上の塩酸ブプロピオンを水に放出する」という限定を含むようにした。

 明細書はまた、実施例で使用されたHPMCについて次のように記載している:
実施例で使用されたヒドロキシプロピル・メチルセルロース2910,USPは、28.0〜30.00%のメトキシル置換および7.0〜12.0%のヒドロキシプロピル置換に一致する。2%水溶液の好ましい公称粘度は、3,000センチポイズ以上且つ5,600センチポイズ以下である。

 審査官は、HPMCが特別なグレードまたは分子量に限定されることを要求していなかったが、地方裁判所は、明細書の実施例に基づいて、特別なグレードのHPMCが定時間放出性や徐放性に重要であると結論付けた、と連邦巡回裁判所は観察した。

 そのようにしながら、判事ポウリーン・ニューマンは、地方裁判所が誤りを犯したと、続けた。出願人も審査官も、「特別なグレードが重要である」とは表明していない。しかも、補正は、「HPMCの特別なグレード」ではなく、請求項に記載された放出のパラメータを表明している、と判事は指摘している。

HPMCは或る重量に限定されていない
 アンドルクス社は次に、そのHPMCが、グレード2910のものよりも有意に低い分子量と粘性を有し、しかもそれが簡単に溶けるので、放出速度に影響を与えない、と意見を述べている。加えてアンドルクス社は、ブプロピオンの放出が、HPMCによってではなく、他の方法で制御される、と主張している。

 グラクソ社は、アンドルクス社が、HPMCを使用すること無しに満足な定時間放出性の製品を製造することは不可能であること、ならびにアンドルクス社が、その錠剤はグラクソ社の錠剤と生体学的に等価であって、ジバンおよびウエルブトリンSRの放出速度、溶解、および血漿プロフィールに適合していることをFDAに提示している、と反論した。

 控訴裁判所はグラクソ社に味方して、アンドルクス社が使用したHPMCがブプロピオンの放出の速度に影響しないという点をアンドルクス社が立証することに失敗した、と判断した。ここで、本質的および非本質的な証拠は、錠剤のコアとしてブプロピオンと混合されたHPMCが特別なグレードおよび分子量に限定されてはいないとする結論に導くものである、と裁判所は表明している。クレーム用語が既に認められた科学的意味を有する場合、その意味は一般的には明細書中の特定の実施例に制限されるものではない、と裁判所は付言している。「通例、特許のクレームは、好ましい実施形態(embodiment)・・・や、その特許明細書に掲げられた実施例(examples)に限定されない」と、ダウ・ケミカル社対ユナイテッド・ステーツ事件(Dow Chemical Co. v. United States)226 F. 3d. 1334, 1342, 56 USPQ 2d 1014(Fed. Cir. 2000)(60 PTCJ 396, 9/15/00)を引き合いに出しながら、裁判所は表明した。

 放出を制御するHPMCの特性および用途は周知であり、しかも特許性は、ブプロピオンに対するHPMCの比、貯蔵寿命、放出の速度、放出の期間、および血漿レベルによって逆転されるものであることを審査記録が示している、と連邦巡回裁判所は認めている。かくして、塩酸ブプロピオンと共に使用されたHPMCが特定実施例中のHPMCのグレードおよび分子量に限定されていない、と裁判所は表明した。その代わりに、クレームは、HPMCが表明された量で存在すること、並びに製品が、放出速度および期間と、血漿レベルと、クレーム中で述べられた他の特性とを有することを必要としている、と裁判所は述べている。

独立した特許性
 アンドルクス社はまた、その放出速度は、そのコアHPMCの使用とは関係がなく、しかもユードラジット100およびエトセル100(いずれもHPMCを含有しない)なるブランド名の製品を含有した外皮によって完全に制御されるものである、と意見を述べている。この処方は、独立して特許されている、とアンドルクス社は論争している。

 この事実は地方裁判所によって考慮されることもあるが、等価性に関して「非現実的な」変化の争点がある場合には、独立した特許性が自動的に侵害を否定することにはならない、と判事ニューマンは記述している。アンドルクス社によって使用されたようにHPMCがブプロピリンの放出を制御するという現実的な証拠をグラクソ社が提示しているので、この侵害の形態は、略式判決ではグラクソ社に不利になるように決定できなかった、と判事は表明している。

 加えて、控訴裁判所は、地方裁判所の等価性についての決定が、もはや適用可能ではない、と判断している。この判断は、文字通りの侵害がHPMCの特別なグレードに限定されないこと、並びにクレーム限定がアンドルクス社製品によって一致されている点をグラクソ社が立証しなければならないという事実を与えられているという、決定に照らしてなされた。

 地方裁判所の非侵害の略式判決は無効にされ、この事件は差し戻される。

 モーガン・ルイス & ブキアス事務所(ニューヨーク)のスティーブンBジュドロウがグラクソ社を代理した。イシコフ、ラガッツ&ケーニグスバーグ事務所(マイアミ)のエリックDイシコフがアンドルクス社を代理した。

文責 伊丹勝

参考文献
BNA International Inc., "Patent, Trademark & Copyright Journal", ’Court Erred in Limiting Claim Term To Examples Cited in Patent Specification’, Page 577-578, Volume 66, Number 1639, September 26, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)

以上


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