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国際活動センターからのお知らせ (2004年1月)

〈米国〉

マイクロソフトの特許侵害の評決の特許の再審査請求

〈概要〉
  World Wide Web Consortium (3WC:サーバ等の技術の標準化推進団体)は、米国特許商標庁(USPTO)に対して米国特許第5,838,906号(906号特許)を再審査し無効にすることを請求した。906号特許は、Webブラウザ(インターネット内容閲覧ソフトウエア)技術に関するものであり、2003年8月にMicrosoft Corp.(Microsoft)が侵害したと評決されたものである。USPTOのJames Rogan長官宛の書簡において、3WCは、906号特許の発明は、数日早くUSPTOへ提出された先行技術文献に既に記載されていたものであると述べた。

Microsoftに不利な陪審員の評決
  906号特許は、Eolas Technologies Inc.(Eolas)及びUniversity of CaliforniaによってMicrosoftに対してなされた特許侵害訴訟の主題である。その訴訟は、Microsoftの広く使用されるブラウザ基盤であるインターネットエクスプローラが906号特許を侵害したことを問うものである。陪審員は、8月に侵害に同意し、521百万ドル(約570億円)のEolasの損害を認めた。

再審査の請求
  3WCは、10月24日に、米国特許法第301条に基き、906号特許の審査において考慮されなかった2先行技術引例(Regett I文献とRegett II文献)を提供する陳述書を提出した。3WCによれば、これらの2文献は、単独で906号特許の主要クレームを予期し、確認された先行技術引例(Mosaic browser)と共に考慮されて、それらは、米国特許法第103条に基き、クレームを自明とする。

 米国特許法第301条は、特許のクレームの特許性に関係する先行技術を「誰でも何時でも」提供することを許す。提供者が先行技術の関連性及び適応性を書面で説明する場合、引例及び説明は、公式特許ファイルの一部となる。

 米国特許法第302条に基き、人は第301条により引用された先行技術に基き特許クレームの再審査を請求することができる。3WCの社長Tim Berners-Lee氏は、USPTOのJames Rogan長官宛の10月28日付け書簡において、同条に基きUSPTOに対して「World Wide Webの作動への重大な経済的及び技術的損害を防止するため906号特許の再審査を開始すること」を促した。

 Berners-Lee氏は、Eolas対Microsoftの判決の結果、Microsoftは、906号特許の侵害を回避するためインターネットエクスプローラを再設計することを意図する。3WCによると、そのような再設計は、数百万のWeb頁及び多数の独立ソフトウエア開発者の製品をMicrosoftの製品に互換性のないものとするであろう。

 Berners-Lee氏は、その書簡で、全体的基準は、Web上の相互作動性を保証する基礎であったと述べた。しかしながら、過去のWebの基準に頼ってWeb頁を書く者及びソフトウエアを開発する者は、906号特許により強制される標準からの逸脱に適応するため彼等のシステムを改造しなければならない。Berners-Lee氏は、有効性が明かに疑問である特許は、Webを作った長年の仕事を台無しにすることを許されるべきでないと主張した。

 906号特許は、Webブラウザが直接的にそれを表示することができないWeb頁の部分を表示するため外部プログラムを呼び出すWebブラウザの能力に全体として向けられる。Berners-Lee氏によると、906号特許に記載のWebブラウザと典型的な従来技術のWebブラウザとの間の唯一の相違は、像が残りのWeb頁と同じウインドウに表示されることである。しかしながら、表示するか、または残りのWeb頁と同じウインドウに外部プログラムにより作られた像を埋め込むか、の特徴は、既に、Regett I文献とRegett II文献に記載されたものである。

 Berners-Lee氏は、以下のように詳述した。即ち、906号特許のクレームは、この先行技術により明白に特許性がない。更にWebブラウザのこの特徴の開発の前にさえもソフトウエア開発者は同様の特徴を先行技術のワードプロセッサプログラムに付加することの有用性に気づいていた。それは、Web頁の代わりに文書を表示する。例えば、906号特許のクレームが出願される1年以上前に、MicrosoftのWindows 3.1によって提供された「Write」と称される言語処理プログラムは、使用者がPaintプログラムによって創造した図表像をWriteの文書へ埋め込むことを可能にした。

Writeプログラムは、次にその像を同じウインドウ内に文書の残りとして表示するためにPaintプログラムを呼び出した。このように、3WCの第301条の請求に添付の数件の先行技術文献を考慮することなく、906号特許が技術に何も付加しないことは明白であり、それは、文書表示における周知の構想をWeb頁という特定の種類の文書の表示に応用しただけである。

 3WCは、Eolas対Microsoftの裁判は、無効性の問題を無視した故に欠点があると非難した。Berners-Lee氏は、「裁判所は、我々が301条により提出した技術を考慮しなかったと同じく、Webに対する判決の大きな衝撃を考慮しなかった」と記載し、この事件は、形式的には特許権者と侵害容疑者の間の争いである一方、Eolasに有利な判決は、この特許の再審査を開始しない限り、Web社会全体に大きな悪い衝撃を与えるであろうと認めた。

 米国特許法第303条に基き、USPTOは、第302条の再審査請求の提出に続く3か月を、再審査請求によって新規の実質的な特許性の問題が提起されたかどうかを決定するため有する。これに関する否定的な決定は、最終的であり上訴できない。しかしながら、新規の実質的な特許性の問題が発見された場合は、USPTOは、特許の再審査を命じる。他方、Microsoftの侵害評決に対する上訴は継続している。

 10月30日発行の長官指令書によると、USPTOは、906号特許の再審査を行うであろう、と特許審査政策担当副長官Stephan G. Kunin氏が述べた。指令書によると、3WCによりUSPTOへ提出された先行技術は、906号特許の「コンピュータネットワーク上に埋め込まれたプログラム目的物の運転方法」に向けられた数個のクレームに関する特許性の実質的に新規の問題を提起するものである。その発明は、Webのようなネットワークに接続されたコンピュータの使用者が、プログラム目的物及び遠隔応用プログラムを捜し、引き出し、そして相互作用することを許容する。

 906号特許のクレーム1-3及び6-8が問題である。クレーム1-3は、顧客のワークステーション及びネットワークのサーバを含むネットワーク上でプログラムを作動させる方法に関する。クレーム6-8は、顧客及びサーバに接続されたシステム上で使用されるべきプログラムであって、そのネットワーク環境が分配されたハイパーメディア環境であるプログラムに関する。

 再審査において精査されるべき先行技術引例は、ハイパーテキストのマークアップ言語、HTML+、及び公開郵便リスト上へのHTML+文書の著者による配置の文書である。全ての先行技術は、1993年の日付がある。

文責 神田藤博

参考文献
BNA International Inc., "Patent, Trademark & Copyright Journal", ‘Web Group Asks PTO to Invalidate Patent Microsoft Was Found to Have Infringed‘, Page 10-11, Volume 67, Number 1645, November 7, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)





〈米国〉

Festo判決の下、先行技術の沸点の推定的放棄は反覆できない

〈概要〉
  特許権者は、審査官の拒絶に対して、従来燃料の高い温度範囲を放棄するために、自己の発明におけるガソリンの沸点範囲を狭めた。この際、特許権者は、従来燃料及びこれと均等であってそれより高温の沸点を有する燃料を推定的に放棄したことを覆すための理由、すなわちFesto最高裁判決で判示された理由を主張していなかった、とCAFC(連邦巡回区控訴裁判所)は判決を下した(Talbert Fuel Systems Patents Co. v. Unocal Corp., Fed. Cir., No. 99-1421, 10/28/03)。

CAFCは、Festo判決に基づいて最高裁により破棄され差し戻された事件での均等侵害の不成立という判決を支持した。同裁判所は、沸点の上限が390°F-420°Fである先行文献を考慮して沸点の上限を345°Fに補正したことは、373.8°Fという沸点を有する被疑侵害の燃料を推定的に放棄した、と結論付けた。更に同裁判所は、Festo判決を踏まえて、(1)(345°Fよりも)高い沸点の燃料は補正時に予見することができた、(2)補正の理由は被疑侵害物と非本質な関係ではない、(3)エストッペル(禁反言)を避けるための「他の理由」が存在しない、ことを理由に、その推定は反覆できない旨を判示した。

Talbert Fuel Systems Patents Co. :原告−控訴人,特許権者(USP 5,015,356)
Unocal Corp. :被告−被控訴人

Festoの下で破棄された燃料事件
  Talbert Fuel Systems Patentsは、沸点範囲が121°F-345°Fの“low Reid Vapor Pressure liquid gasoline”に関する特許(USP 5,015,356)を取得している。Unocal Corp. は、沸点範囲の上限が373.8°F-472.9°Fのガソリンを所有している。Talbertは、Unocalを特許権侵害として訴えた。

 CAFCは、’356特許は沸点の上限が345°Fである燃料に限定されており、その出願経過によってUnocalの均等侵害は排除され、また、’356特許とUnocalが所有する特許とは衝突しないという地方裁判所の判決を支持した(275 F.3d 1371, 61 USPQ2d 1363(Fed. Cir. 2002)(63 PTCJ 255, 1/18/02))。この際、CAFCは、「再審査手続きで特許クレームを限縮する補正を行うと、その限縮された要素を含む全てのクレームにおいて均等の範囲が認められない」という主義、すなわちFesto CAFC判決(Festo Corp. v. Shoketsu Kogyo Kabushiki Co., 234 F.3d 558, 56 USPQ2d 1865(Fed. Cir. 2000)(61 PTCJ 104, 12/1/00))の“absolute bar”に基づいて判示していた。

 しかしながら、最高裁判所は、Festo最高裁判決に従って審理させるべく、その判決を破棄してCAFCに差し戻した。

文言侵害の不成立
  Talbertは、ガソリンの分別は不明確であり、正確な沸点の上限を知ることは容易ではなく、345°Fという限定は、単に最も高い沸点を有するC10炭化水素がクレームされた構成要素中で存在しなければならないことを考慮したものに過ぎない旨を述べた。そして、特許クレームは、僅かに高温の沸点の存在を排除するものではなく、被疑侵害の燃料は文言侵害を構成する旨をTalbertは主張した。

 CAFCはこの主張を認容しなかった。Pauline Newman裁判長は、その温度限定は、沸点の上限が390°F-420°FであるHamiltonの文献と区別するために審査官の拒絶に対してされたものであり、かかる出願経過を考慮すると、クレームで規定された温度範囲から離れる権利範囲を認めることはできない、と述べた。また、同裁判長は、クレームされた発明の温度は98°F-345°Fの範囲であり、その温度限定はTalbertが特許許可を得るために必要であった、と説明した。

 更に裁判長は、345°Fという上限温度が373°F以上の温度範囲を含むものと明確に解釈できる合理的な説明をTalbertがしていなかったため、地方裁判所の文言侵害不成立の判決を支持する、と述べた。

沸点範囲の推定的放棄
  均等侵害の議論において、Festo最高裁判決の下、CAFCは、Hamiltonの390°F-420°Fという沸点の上限を考慮して345°Fに沸点の上限を補正したことは、Talbertの上限とHamiltonの上限の間の温度範囲を放棄したと推定される旨を判示した。

推定を反覆する理由の欠如
  放棄の推定を反覆(rebut)するために、最高裁判所が「特許権者は、問題となっている均等物を文言上包含するクレームを補正時に当業者が考え出すことが合理的にできなかった旨を示さなければならない」とFesto事件において判示したことを、Newman裁判長は強調した。

 また、Newman裁判長は、Festo最高裁判決で述べられた、推定的放棄を覆すための以下の3つの基準を検討した。
(1) 問題となっている均等物が出願時に予見できないものであったこと、
(2) 補正の理由は、問題となっている均等物と本質的な関係が無いこと、又は、
(3) 問題となっている非本質的な置換物を特許権者が規定することが合理的にできなかったことを示す理由が存在すること

 第1の基準に関して、CAFCはPioneer Magnetics Inc. v. Micro Linear Corp., 330 F.3d 1352, 66 USPQ2d 1859 (Fed. Cir. 2003)(66 PTCJ 170, 6/6/03)を引用し、従来技術が問題の均等物を包含しており且つ限縮補正はその均等物を避けるためにされた場合は、主題は予見できなかったものとはいえない、と述べた。また、Talbertの補正は、沸点がより高温の燃料と区別するために必要であったものであり、Talbertは高温の燃料を黙示的に放棄している。この問題はすでに審査過程で審査官に充分説明されているため、従来技術の燃料に近い、345°Fより高温の沸点を有する燃料が予見可能であったかという議論はしない、とNewman裁判長は述べた。

 第2の基準に関して、沸点範囲と炭素含有量は限縮補正の直接的な理由であるため、Talbertの補正はUnocalの均等物と非本質的な関係にあるとはいえない、とNewman裁判長は述べた。

 第3の基準に関して、禁反言を避けるための他の理由が説明されていない、と同裁判長は述べた。Talbertはクレームが不要な厳密な限定を含んでいると主張したが、Newman裁判長は、もしその通りだとしても、裁判所にはそのような訂正をする権限が無いと述べた。また、同裁判長は、沸点範囲の正確性や普遍性は、Festo判決でいう「用語の不明瞭性(imprecision of language)」の問題ではなく、充分に研究された分野では測定できる特性であると説明した。

 以上のようにして、地方裁判所の判決は再び支持された。

文責 阿部豊隆

参考文献
BNA International Inc., "Patent, Trademark & Copyright Journal", ‘Presumed Surrender of Prior Art Boiling Points Is Not Rebutted Under Festo‘, Page 13-14, Volume 67, Number 1645, November 7, 2003
(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)

以上


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