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国際活動センターからのお知らせ (2004年2月)

〈米国〉

「酸」としてクレームされている骨粗鬆症薬は塩形態の酸を包含する

〈概要〉
  「酸」化合物の投与により骨粗鬆症を処置する方法をクレームする特許は、塩の「形態」にある酸活性成分を使用する処置方法をカバーしている、と連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は判示した。

 CAFCは、地方裁判所のクレーム解釈と侵害判断を支持し、Merckが販売するモノナトリウム塩であるFosamax薬のジェネリック品は、酸に関するMerck特許を文言侵害していると判断した。Merck特許の明細書には塩形態の酸として活性成分が記載されていたからである。この判断は明細書のみならず、薬理学分野の当業者における認識に関する証拠及び技術文献や審査経過に関する証拠によっても支持される。

 反対意見として、主席判事Haldane Robert Mayerは、明細書の記載のほとんどは酸と塩とを区別しているので、文言侵害は認められず、そして特許権者は、塩を明示的にクレームしなかったことから均等物を放棄していると述べている。

骨粗鬆症薬
  Merck & Co.は、尿路結石症及び、骨粗鬆症などの骨再吸収障害を4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ビホスホン酸で処置する方法に関する特許(4,621,077号)の特許権者である。商品名Fosamaxとして市販されているMerckの製品は4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ビホスホン酸モノナトリウム塩3水和物、すなわちアレンドロネイト塩である。

 ’007号特許は存続期間が満了しているが、35USC§156に基づきその期間は承認審査と許可期間を補填する分だけ延長されていた。骨粗鬆症治療の効能についてFosamax販売の承認をFDAからMerckが取得した後、Teva Pharmaceuticals USA Inc.及びZenith Goldline Pharmaceuticals Inc.はそのジェネリック品を販売するための略式新医薬品申請(ANDA)を行った。そこで、Merckは特許侵害として両社を訴えた。

 デラウェア地区の地方裁判所の判事Joseph J. Farnan Jr.は’007号特許は文言侵害され、特許は維持されるべきであると判断した。これに対しTevaが上訴した。

明細書では塩形態の酸を使用
  Tevaは、特許がビホスホン酸をクレームしているのに対し、ANDAはモノナトリウム塩についてのものであり、よって自身のジェネリック品は文言侵害していないと主張した。CAFCはこれを否定した。判事Pauline Newmanは、’007号特許のクレーム1にかかる治療用物質は4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ビホスホン酸であるが、その使用形態として、その塩及び、ビホスホン酸と塩形成物質との混合物の製剤中に用いられることが明細書に例示されていると指摘した。

 Newman判事は、酸を「ナトリウム塩」、「塩形態」及び「Na塩形態」として投与するとした、明細書中の表6における記載を指摘し、さらには、通常の薬理学者であれば、活性成分は4-アミノ-1-ヒドロキシブタン-1,1-ビホスホン酸であり、それを使用して骨障害を処置する方法には塩形態の当該活性成分を使用することが包含されることを理解する、という当業者としての証人による証言を取り上げた。

 そして、CAFCは「このことは明細書中に明示的に示されている」と述べた: 明細書の表7及び8ではその塩の「形態」にある酸として列挙されている種々のビホスホン酸塩の活性が比較されており、よって明細書にはその塩の「形態」にある種々の酸が記載されていると指摘した。次いでCAFCは、明細書には塩として使用する例示としての酸がインビボラットモデルにおいて高い活性を有することが記載されている、とも指摘した。「ホスホネート」なる用語は一般には塩を意味するが、明細書中の表7の脚注では、「種々のアミノビホスホネート」としての化合物には問題のビホスホン酸として定義された具体的な化合物が含まれるとして記載されているとCAFCは付記している。

 以上のことから、CAFCは、「明細書全体から、本発明者らは酸及びその塩形態を包含するものとして、酸である活性成分を記載している」と説示した。さらに、CAFCは、ビホスホン酸での処置なる用語が塩形態を使用する処置をも包含するものとして記載されている種々の技術文献における証拠を取り上げた。これらの文献に記載されている語法は’007号特許におけるそれと同一である、とNewman判事は認定した。

薬理学分野における認識
  CAFCはさらに続けた:
  クレームは発明の属する技術分野における通常の知識を有する者と同じ理解のもとに解釈されなければならない。これに関連してCAFCは、骨粗鬆症及び尿路結石症を処置する当業者は医師資格を有し、これら障害を処置するための知識を有し、薬理学とビホスホン酸塩を使用するための知識とを有しているとの、地裁の判断を検証した。

 基本的に、特許文献における用語は、その特許文献に表された意味内容を用いて解釈される(Bell Atlantic Network Services Inc. v. Covad Communications Group Inc., 262 F.3d 1258, 59 USPQ2d 1865(Fed. Cir. 2001)及びMultiform Dessicants Inc. v. Medzam Ltd., 133 F.3d 1473, 45 USPQ2d 1429(Fed. Cir. 1998))。CAFCは、従ってクレームは明細書と矛盾なく解釈されなければならないとした。

 そして、本件明細書自体、これを読んだ当業者はクレームされた「酸」が塩形態の酸を包含する意味であると理解できるはずであると、CAFCは述べ、Newman判事は次のように記している:

  「本件クレームは、特定のビホスホン酸の有効量を投与することにより、尿路結石症を処置し、及び骨再吸収を阻害する方法を特許請求している。証人すべての証言は、当業者であれば、酸が活性成分であり、その酸は塩の形態で投与されることを理解できることを示している。クレームされた処置方法が酸塩により達成されないことを示す証拠はない。記録によれば、Teva及びZenithそしてMerckが自身の商品に「遊離酸等価物」とラベルしている。

  また記録では、本発明者らが活性成分を塩の「形態」と記載したのと同じ語法を当業者も用いていることを示す膨大な証拠がある。Merck側証人であるDr. Reckerは、’077号特許は用語「酸」をナトリウム塩を包含する意味で使用し、この用語は薬理学者に充分に理解されていると証言した。引用された技術文献もこの語法を支持している。さらには、USPTO長官もまた、FDAへの通知に際し、本件特許は連邦に登録された製品をカバーしていると述べている。」

 Tevaの化学者は酸は塩ではないと証言したが、彼は薬理学の専門家ではない。明細書中では、酸を「塩として」使用する薬理学的用途を説明し「ビホスホン酸のナトリウム塩」に言及する際には、酸と塩の違いを明示している。問題は、一般化学の化学者が酸と塩とを区別できるか否かではなく、薬理学における語法に精通した本発明の技術分野における専門家が本件明細書を読んで、酸による疾患の処置が酸塩の投与を包含することを理解できるか否かである、とNewman判事は述べた。

審査経過
  次いで、CAFCは、クレーム用語を解釈するのに審査経過から離れて行うのは適切ではない、とするTevaの主張を退けた。外的証拠は、クレームに使用されている用語の意味を明細書に使用されている意味から変えることはできないが、「発明の属する技術をよく知っているであろう専門家の意見やアドバイスの提供を受け、用語の意味を解釈することは禁止されていない」とCAFCは述べた。そして、Newman判事は、本発明の技術分野ではない化学者の証言と比較して、種々の文献、明細書における語法及びPTOでの見解によって補強された薬理学者の証言を、地裁が信頼に足るものとした点に間違いはない、と述べている。

 35USC§100により、既知の組成物における新規な用途は方法のクレームとして許可されるため、本発明の方法クレームは組成物クレームが拒絶されて許可されている。しかし、組成物クレームの削除は特許に記載された特定の方法を放棄することを意味しないので、本件の審査経過によって上記結論は影響されない。

有効性/回復
  最後に、 CAFC は、 Blum 引用文献がビホスホン酸を「医薬調製物」として使用しているので、 '077 号特許は新規性を喪失しているとする Teva の主張を退けた。 Blum は骨再吸収性が優れている化合物として具体的なものを特定していないので、 '077 号特許にクレームされている治療的処置は Blum に示されていないと Newman 判事は判断した。そして、新規性を否定できる引用文献はクレームのすべての要素と限定とを記載し、かつ当業者がクレーム発明を製造し使用するための実施可能性を満たさなければならないのであり、 Blum はそれに該当しない、と指摘している。

 さらに、 CAFC は、 '077 号特許の存続期間を PTO が延長するのは不適切ではないと続けた。 21 C.F.R. § 60.3 ( b )( 2 )によれば、「活性成分」とは「薬理活性を与える、または身体の構造もしくは機能に影響を与える成分」として定義されており、よって特許クレームは酸を目的としているが、 FDA が酸塩の製品を許可するに際してはそこに何らの誤りもない。§ 156 ( f )はまた、「活性成分」には活性成分の塩またはエステルも含まれると記載されているので、活性成分を酸塩として投与する事実は準拠法に予定されている、と CAFC は説明している。

よって、地裁の判断は上記のとおり支持された。

文責 高山裕貢

出典
BNA International Inc., “World Intellectual Property Report”, ‘Osteoporosis Drug Claimed as ‘Acid' Includes Acid ‘in the Form of' a Salt, Page 17-19, Volume 17, Number 12, December 2003

(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)



〈米国〉

独立クレームとして書き直すことにより権利者が均等論を放棄

〈概要〉
  審査官の拒絶理由通知に基づいて、従属請求項を独立請求項として書き換えた特許権利者は、米国最高裁のフェスト・ルール( 11 月 26 日の巡回高等裁判所に対する控訴審、ランバクシー製薬と、アポテックス遺伝子工学製造・連邦巡回高等裁判所 , 02-1429, 11/26/03 )で、均等論の要求を放棄したとする想定を回避することが不可能となる。

 予備的差止めの執行についての地方裁判所の否定判決を支持する判決を出した裁判所は、明細書の段階において、均等論については予見することが可能であり、特許権者は均等論の要求を失うかも知れないとい予見の論議をすることが出来たという理由で支持した。均等論を取るか、補正しないことにするかどうかの予見性については、特許審査記録に起因すると、裁判所と指摘した。

『2つの遺伝子関連会社の間の侵害事件』
  ランバクシー製薬とアポテックス遺伝子工学製造は、『セフューロザイム・アグゼチル』(扁桃腺やとう炎や皮膚伝染病に使用する広い範囲の抗生物質の使用する)の遺伝子により製造している。

 ランバクシーは、非結晶質のセフューロザイム・アグゼチルを準備するプロセスにおけるアポテックスのパテント( 5,847,118 )が侵害しないという宣言を得る為にアポテックスを訴えた。これに対してアポテックスは、特定の請求項に記載した溶剤を使用せずにむしろ酢酸を使用したランバクシーのプロセスは、均等論の原則の下で侵害するとの予備的差止め請求の反訴を提出した。

 米国ニュージャージー地方裁判所のメアリー・エル・クーパー判事によるアポテックスの予備的差止め請求を否定した。ランバクシーの控訴審においてである。

『狭い範囲の補正が均等論適用を妨げる』
  アポテックスの明細書に対する最初のオフィスアクションの中で、用語としての『極性の強い有機溶媒』が明確に断定できないので、米国特許法 35 U.S.C. § 112 条の下で、クレーム 1 、 8 と 10 に対して拒絶理由を通知した。また、クレーム 1 、 2 、 9 と 10 において、従来技術特許の第 5,012,833 号に同じプロセスが開示されているとして、米国特許法 35 U.S.C. § 103 条の下で明白であるとした拒絶理由を提示した。

 また、審査官は、更に、クレーム 3 〜 7 は、拒絶されるクレームの従属項であるとして拒絶した。しかし、彼は、若し補正して独立項に書き換えれば、特許査定するだろうとした。

 その後、アポテックスはクレーム 1 〜 10 を削除し、新クレーム 11 〜 16 を提出することにより対応した。クレーム 11 は '118 パテントのクレーム 1 として書換られて特許された。

 地方裁判所は審査経過が、アポテックスが次( 1 )の又は( 2 )の均等論適用原則に依ることを予め排除したということの禁反言となると判断した。

 ( 1 )均等論適用原則の中で、特許性に関する拒絶理由に対して、クレームを狭くする補正を行ったこと(フェスト事件の控訴審法廷〔フェスト・コープ対焼結金属工業株式会社 , 234 F.3d 558, 56 USPQ2d 1865 ( Fed. Cir. 2000 )( en banc ) , vacated by 535 U.S. 722, 122 S.Ct. 1831, 62 USPQ2d 1705 ( 2002 )〕)

 ( 2 )審査経過において特許要件が放棄されているという原則

 アポテックスは、地方裁判所は、特許性に関する実質的な拒絶理由に対する技術範囲を狭くする補正が存在したということを含めたことについて反論した。特に、従属クレーム 3 〜 7 の特許性について拒絶した最初のオフィスアクションにおいて、審査官が、クレーム 11 が、独立項形式に書換られた、結合されたクレーム 3 、 5 と 7 以上の特許性を有していないとした理由に基づいて反論した。そして、特許性に関する実質的な拒絶理由に対して、技術範囲を狭くする補正はしてないと反論した。アポテックスは、この主張は次の事件の判決により支持されると指摘している。〔ボーズ対 JBL Inc., 274 F.3d 1354, 61 USPQ2d 1216 ( Fed. Cir. 2001 )( 63 PTCJ 163, 12/21/02 )

 主任判事である H. ロバーツ・メイヤーはボーズ事件の判決に依拠する主張を拒否した。判事は、本事件では、裁判所は、クレームに対する本来具備されている要素の追加である技術範囲を狭くする補正が、フェスト事件判決やボーズ事件判決の絶対的な原則を回避していなかったという点に着目したものである。

 また更に、判事は、従属クレームを独立クレームに書き換えた際の効果は、審査経過の禁反言の結果を導かないと指摘した。

 また、注目すべきは、判事は、このように付け加えた。「フェスト事件の最高裁は、明確に、このような補正は、或る事件では禁反言状態を作り出すかも知れないが、『ケース・バイ・ケース』の基本姿勢に則って、扱われるのが最良である」と結論付けている。

文責 矢野壽一郎

出典
BNA International Inc., "Patent, Trademark & Copyright Journal", ‘Patentee Surrendered Equivalents By Redrafting Claim as Independent‘, Page 101-102, Volume 67, Number 1649, December 5, 2003

(本ダイジェストは、著作権者の許諾の下、原論文の要約を掲載するものです。)

以上


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