意匠法は、特許法などと共に産業財産権法の世界を構成し、更に著作権法や不正競争防止法などと共に知的財産法の世界を構成しています。意匠の対象となるデ ザインは「創作物」としてこれらの世界の中で保護されているものであり、意匠法或いは意匠登録という世界のみを抽出してその保護を語ることはできません。
俗に「意匠は知的財産の交差点」といわれるほどに、幾多の法領域が重なる分野なのです。
「登録」だけに目を向けるならば、図面製作の心得のある者であれば、意匠法が原則的に求める意匠の6面図を互いに不一致なく作成することは或いは可能かも知れません。
しかし、意匠法及びその周辺法の規定を何ら考慮することなしに、意匠創作者等の依頼者が提供する設計図面や、サンプル商品に表された意匠そのままを単に意 匠出願図面に表し、意匠出願してしまったとしたら、この出願によって得られた意匠権の権利範囲の狭さに依頼者/意匠権者は愕然とし、或いはまた、取得した 意匠権に基づいて商品を製造、販売等したにもかかわらず他人の権利侵害を構成することさえ起こり得ます。
すなわち、意匠出願業務は、提案された意匠を単に図面に描いて提出するだけでは、依頼者の期待に十分に応えられないのです。意匠法及びその周辺法の規定を 熟慮して、依頼者にとって最も有益な意匠出願の形態を進言し、また、これに必要な書類を作成しなければならない業務なのです。
Q4:広い保護のために工夫が必要とは例えばどういうことですか?
Q5:意匠はデザインであり、特許は技術である。意匠として創作されたものが特許の方が相応しいとはどういうことですか?
Q6:広い保護を求める人は別として、登録が得られればよい、という人も多いのではないでしょうか。
Q1:
意匠登録出願手続はどのようなものですか?
A1:
意匠登録出願手続は、願書を特許庁に提出し、審査を経て、登録料を納付して権利が発生するまでの一連の手続です。審査において登録要件の不備が発見されて拒絶理由通知が出された場合に、それに対応することも出願手続の一環です。
Q2:
願書の作成自体、特殊な技術が必要なのでしょうか?
A2:
願書の作成は、特許庁の規定する様式に従って物品名などを記載し、意匠を表す図面や写真を貼付するものなので、それ自体特殊な技術が必要というものではありません。しかし、特許庁の要請する要件を満たす図面が書けてないために、審査に時間がかかったり、結局権利を取得できなくなるということも起こります。
また、創作者が満足するような保護(広い保護)を獲得するためには、図面等の表し方に工夫が必要です。売ろうとする商品の形態をそのまま図面に表しても、出願して権利を取得することは可能ですが、狭い権利、他人の模倣を排除しにくい権利に止まりがちです。
さらに、場合によっては、意匠出願よりも特許出願の方が相応しい場合や、意匠と特許の双方を出して、創作者が望む保護が図られる場合もあります。
また、創作者が満足するような保護(広い保護)を獲得するためには、図面等の表し方に工夫が必要です。売ろうとする商品の形態をそのまま図面に表しても、出願して権利を取得することは可能ですが、狭い権利、他人の模倣を排除しにくい権利に止まりがちです。
さらに、場合によっては、意匠出願よりも特許出願の方が相応しい場合や、意匠と特許の双方を出して、創作者が望む保護が図られる場合もあります。
Q3:
特許庁の要件を満たす図面を書くことは難しいのですか?
A3:
(1) 意匠の外観形態を特定するための図面要件
1: 分離することができるものについては、結合した状態を示す図に加えて、分離した状態を示す図を提出することとされています(意匠法施行規則第3条、様式6、備考18)。
例) 出願相談を受けた意匠Aは、キャップ付きの飲料容器であり、キャップと容器本体との分離状態が外観からは想像しにくいものであった。
この場合、容器本体にキャップを取り付けた状態を示す図のみを提出すると、図面の不足が指摘され、キャップを取り外した容器本体の図(a)を提出しなけれ ばなりません。このとき、(a)の提出は「要旨変更」として認められない場合もあり、その場合、この出願は拒絶され、登録を受けることができません。
2: 機能に基づいて形態が変化する意匠については、変化の前後の形態を図に示すこととされています(意匠法第6条第4項)。
例) 出願相談を受けた意匠Aは脚付きモニターであり、脚の形態が変化した。
この場合、脚の通常形態を示す図(a)に加えて、脚を変化させた形態を示す図(b)も提出しなければなりません。(b)の提出がない場合は、脚の形態が変化しない意匠として登録されます。
Q4:
広い保護のために工夫が必要とは例えばどういうことですか?
A4:
(1) 形状のみの意匠(商品化する意匠には模様が施されていても、模様を省いて作図する)
例) 意匠Aは、お茶を入れて販売するためのペットボトルであり、形状に特徴があるところ、容器本体には模様も施されていた。
この場合、容器の「形状のみ」を図面に表し、「模様」は図面に表さないで意匠出願すべきです。「模様」をも図面に表すと、意匠Aと形状は同一であるが、模様が異なる意匠Bに権利の効力が及ばない危険があります。
(2)部分意匠
例) 創作された「コーヒーカップ」の意匠Aは、「取っ手」の形状に特徴があった。
例) 創作された「コーヒーカップ」の意匠Aは、「取っ手」の形状に特徴があった。
この場合、コーヒーカップ全体の意匠としてではなく、「取っ手」部分を対象としたの登録(部分意匠登録)が有効です。このようにして得られた意匠権の効力は、意匠Aの「取っ手」と同一、類似の取っ手を持つカップ全て、例えば、意匠Bにも及ぶことになるのに対して、意匠A全体を対象とした意匠権では、意匠Bに効力が及ばない恐れがあります。
(3)関連意匠
例) 創作された2つの意匠A、意匠B(コップ)は、互いに似ている意匠であった。
この場合、例えば、意匠Bの意匠出願を、意匠Aの意匠出願を「本意匠」とする「関連意匠の出願」とし、しかも、これら2つの出願を「同日」に出願しなければなりません。(3)関連意匠
例) 創作された2つの意匠A、意匠B(コップ)は、互いに似ている意匠であった。
もし、A又はBの一方のみを出願した場合、cが権利範囲に含まれるか否かに付き争いが生じるが、関連意匠の登録を受けることにより、意匠Bに比してより意匠Aに近い意匠cが意匠Aに類似すると(裁判所において)判断される蓋然性を高めることができます。
Q5:
意匠はデザインであり、特許は技術である。意匠として創作されたものが特許の方が相応しいとはどういうことですか?
A5:
意匠は「創作」であり、インダストリアルデザインにおいては「技術開発」と「デザイン開発」とは一体となっています。
そのため、デザインの開発内容は、一義的に「特許」「意匠」と切り分けられるものではなく、開発者が「意匠」と認識していても「特許」が相応しい場合も多々あります。また、双方の出願が望ましい場合も多い。
従って、特許と意匠の実務の双方に精通していなければ、創作物を何れによって保護するのが適しているのかを判断することができません。
例) コーヒーなどに使用される使い捨てタイプのマドラーの意匠A。
このマドラー、使用しないときに紙コーヒーカップの縁に引っ掛けておくことができるという技術作用的効果の開発(発明)と一体になされたものであって、意匠Aの形状に限らず、他の形状、例えばマドラーBによっても得ることができるものであった。
この場合、意匠Aを出願してもBに対しては効力が及ばない可能性が高い。特定の形状に限定されることなく保護が受けられる特許出願が有効です。
そのため、デザインの開発内容は、一義的に「特許」「意匠」と切り分けられるものではなく、開発者が「意匠」と認識していても「特許」が相応しい場合も多々あります。また、双方の出願が望ましい場合も多い。
従って、特許と意匠の実務の双方に精通していなければ、創作物を何れによって保護するのが適しているのかを判断することができません。
例) コーヒーなどに使用される使い捨てタイプのマドラーの意匠A。
このマドラー、使用しないときに紙コーヒーカップの縁に引っ掛けておくことができるという技術作用的効果の開発(発明)と一体になされたものであって、意匠Aの形状に限らず、他の形状、例えばマドラーBによっても得ることができるものであった。
Q6:
広い保護を求める人は別として、登録が得られればよい、という人も多いのではないでしょうか。
A6:
確かに、今販売する商品自体が保護されればよい、とする出願もあります。
しかし、そのような出願こそ、出願前の慎重な調査が必要であり、権利侵害回避のために専門家に関与してもらいたいと考えています。
しかし、そのような出願こそ、出願前の慎重な調査が必要であり、権利侵害回避のために専門家に関与してもらいたいと考えています。
(1) 出願意匠(販売品の意匠)(A)が他人の登録意匠(B)「類似」する場合、これを新たに出願しても意匠登録されません(意匠法第3条)。このような意匠出願は無駄になるばかりか、この出願によって、将来、意匠権を取得できると思い込み、莫大な費用を注いで商品を製造、販売等しても、そのような行為は意匠権侵害を構成してしまうことになります。
事前調査をすれば、出願や商品製造前に他人の登録意匠Bに類似していることが判明し、無駄な投資や侵害の危険を回避できます。
(2) 他人の登録意匠に類似しないとして登録された意匠であっても、他人の先行する登録意匠を利用するときには、登録された自己の意匠を製造、販売等する行為は他人の意匠権侵害を構成することになります(意匠法第26条)。
登録されるだけに、「調査」以外には権利侵害の危険性を知る機会がありません。
例) 意匠A(携帯電話)は、登録されたので安心して商品の販売をしていたところ、他人の登録意匠B(携帯電話用アンテナ)の侵害であるとクレームを受けるおそれがあります。登録意匠Bの利用すなわち権利侵害となるのです。