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【SPECIAL TOP INTERVIEW】株式会社エンジニア

特許は役に立たない!? 日本の中小企業の本音と解決の方向性

大阪府大阪市東成区に本社をおく、株式会社エンジニア。同社のビジョンは、「“クール”で“イノべーティブ”な機能とデザインを備え、“遊び心”を併せ持った道具を創造し、世界一愛される工具メーカーになる」というもの。今回はご自身が最前線に立って同社を牽引する高崎社長に、ネジザウルスGTの開発秘話、特許とマーケティングの重要さ、中小企業でもできるプロモーション施策などについて、お話を伺いました。

冒頭、高崎社長は世界と比べて日本の経営者の特許意識の低さを指摘されました。

「最近メキシコの方とお話する機会があるのですが、メキシコ国内における特許事情がなかなか興味深いんです。以前メキシコの特許庁に出願される案件の実に97%は、アメリカやヨーロッパ、日系の企業でした。いわばほとんどが、海外の企業が現地に進出するためだけのものになっているのです。最近は80%前後に減ってきているようですが、それでも相当高い。でも日本の状況は、もっとひどいと私は危機意識を持っています。メキシコ国内では特許制度の存在自体が、まだまだ認知度が低い。ところが日本では特許というものは知っていても、大多数を占める中小企業の社長は“知ってるけど、あれは役に立たへんねん”と、背を向けているのが実情だと思うんです」

知的財産権を重視している同社では、なんと社員50名のうち25名が知的財産管理技能士の資格を持っているとのこと。日本の実情と、その改善の方向性について語って頂きました。

「“知財とっても意味ないし、仮に侵害品が出てこなかったとしても、売上上がらへん。コピー品出なかっただけで、金をどぶに捨てたな”というのが、今の多くの中小企業社長の本音だと思うんです。しかし私が自分自身の経験も踏まえて確信しているのは、特許は絶対条件ではなく必要条件の一つに過ぎず、特許+マーケティング施策のパッケージこそが、中小企業の売上向上および企業成長の要だということなんです」

マーケットイン+サプライズが、ヒットする大きなポイント

高崎社長は、ご自身も含めて日々の売上に奔走する日本の中小企業の大変さに十分理解を示しながら、一方で特許の必要性と活用の重要性について話された。

「中小企業は、日々の売上確保、資金繰りが大変です。一方で、自社の研究開発努力を製品にし、他社にコピーされないという取り組みも重要です。特許単体では、売上保証、利益保証にはなり得ません。だからこそ、私はMPDPという考え方を提唱しているのです。Mとはマーケティング、Pはパテント(知財)、Dはデザイン、Pはプロモーションです。特許などの知的財産のプロセスを含むこれらの4っの要素が全て揃って初めて、商品はヒットするのです」

MPDPを提唱する高崎社長には、その原体験がありました。それが、大ヒットしたネジザウルスGTだったのです。その具体的プロセスをお聞きしました。

「“マーケットイン”という言葉がありますが、市場の一部であるお客様の声を聞いて作っても、結局どの商品も同じになってしまう。それでは、ユーザーは面白くないのです(笑)。ネジザウルスはそれまで3機種あり、リーマンショックを契機に、4代目を作ろうということになりました。そこでお客様のニーズを拾っていったら、“グリップを何とかしてくれ”といったいろんな要望が出てきました」

ここで同社の若手のオタク社員が、大ヒットのキッカケを作ることになります。

「その時ある若手社員が第5位のトラスネジに関する要望に着目し、“コマネチ角度という基本特許をもうちょっとこうしたら、うまくいく気がします”というアイディアを持ってきたんです。試作室でささっとやると、確かにイケると。不安はありましたが採用したら、お客様からの反応が凄かったんです。お客様のところに持って行って、“それはワシも良いと思ってた”という反応はヒットしないです。“おっ、そう来たか”じゃないと(笑)。」

若手社員の提案がキッカケでネジザウルスGTは誕生し、その製品化には高崎社長の勇断がありました。それを一過性の成功物語で終わらせないためのセオリー化として、先述のMPDPが生まれました。高崎社長は、自社の継続的成長のために日々MPDPを活用しています。

ネジソリューション王国を支えるMDPDと知財戦略

中小企業が成長するためには、ネジザウルスGTの事例のように市場ニーズをおさえながら、ターゲット顧客の潜在ニーズを把握し、破壊的イノベーションを起こすことが重要だと高崎社長は語ります。

「よくある製品改良の手法として、持続的イノベーションがあります。性能やスペックをどんどん上げていくものですね。ところが今回のネジザウルスGTの場合は、破壊的イノベーションなんです。普段からあるものが、ある日突然ぐーっと激変する。マーケティングの真骨頂は、いかにターゲット顧客の潜在ニーズを見極めるかだと思います。あと重要なのは、時間軸という考え方です。潜在ニーズと顕在ニーズは、現状の下を掘りましょうという方向です。一方将来こうなるからという考え方は重要なんですが、中小企業にとってはその体力上非常にリスキーなんです。だから半歩先ぐらいのところが、ちょうどいいんです」

マーケティングの成功により製品がヒットさせるだけでなく、最近はYouTubeを活用した海外販路の開拓にも挑戦されているそうです。その辺も、詳しくお聞きしました。

「日本国内でGマークを頂いたので、次は海外の賞にもエントリーしてみようかというのがキッカケです。自社で動画コンテンツを作成し、どんどんYouTubeに載せていったんです。日本のコンテンツって、海外の方は好きじゃないですか。MDPDの中でもプロモーションはSNSがあるので、中小企業にも追い風です。ドイツなフランスなど、将来有望と思われる国の言葉に翻訳したバージョンで展開し、実際引き合いが来ています」

当然、知財に関する動きも手を打たれています。自社内での知財関連の知識習得に力を入れている同社は、具体的にどういう動きをされているのでしょうか。

「特許と意匠、商標が、弊社の知財戦略の柱です。商標に関しては、出所表示機能、品質保証機能、宣伝広告機能があります。ただ何も考えずにがむしゃらに特許を取得しても、無駄が発生する可能性があります。例えば権利範囲を小さくして特許を取得しても、コピー製品が出てきた時、今回のものは技術範囲外ですといわれるとか。そういうことも含めて、弊社はまず自分達である程度の知識を勉強しようというスタンスを継続しています。特許に関する基礎知識を持つことで、弁理士の先生にご相談させて頂く内容がより充実したものになり、良い方向性を打ち出せると実感しています」

今回お話を伺って、高崎社長のユニークな人柄とパワフルさに圧倒されました。高崎社長は社長に就任される前は某大手造船メーカーに10年間技師として勤務されていたとのことで、同社の施策が非常に体系的に整理されている文化の原体験はそこにもあるのかも知れません。特許を含めた中小企業の経営成功パターンが、今回の取材で浮き彫りになり、日常のビジネスのヒントにして頂ければと思います。

Gマークは、公益財団法人日本デザイン振興会が主催するグッドデザイン賞に選出された作品に表示できるマークのことです。