2015年バイリが北京市知的財産局へ訴え
意匠とは、工業デザインのことです。そして意匠権とは、創作した工業デザインを一定期間独占できる権利です。工業製品の商品力の大きな要素の一つであるデザインは、最も真似されやすい領域の一つです。この事例は、スマートフォンで大きなシェアを持っているアップル社のiPhoneのデザインに関するものです。
事の経緯は、2015年1月中国のシンセン市佰利営销服務有限公司(以下、バイリ)が、自社が保有する意匠権をもとに、中国アップルが販売しているiPhone6、iPhone6Plusは意匠権を侵害しているとして販売差し止めを求めて北京市知財財産局に訴えました。それに対抗して中国アップルは、2015年3月30日国家知識財産局の専利復審会に対し、バイリの意匠権は無効であるとする無効審判をおこしました。すると2016年1月6日、専利復審委員会は、中国アップルの無効審判に対し、意匠権の有効性を維持する決定を出したのです。
次いで2016年5月10日、北京市知的財産局は、中国アップルは意匠権を侵害したと認定しました。そして、iPhone6とiPhone6Plusの販売差し止めを求める決定を出したのです。2016年6月15日、中国アップルは当該意匠権はバイリの保護範囲に属していないとして、北京知的財産法院に対して行政訴訟をおこしました。その結果、2017年3月24日、北京知的財産法院は、北京市知的財産局が出した意匠権侵害の認定を取り消し、中国アップルの主張を認めて侵害していないことを認定したのです。
中国の知財司法制度の進化を証明
この人気スマートフォンの意匠権を巡る紛争は、世界の注目を集めました。もし中国企業の主張が認められると、巨大な中国市場からアップルが撤退することを余儀なくされるからです。また世界中の知財関係者も、固唾をのんで注視していました。中国の知財制度が、国際的な基準と軸を同一にするかどうか試金石になるからです。
結果的には、中国アップルの主張が認められ、中国の知財司法制度は先進国並みに進化していることを証明することになりました。通常は3人の裁判官による合議体で判決を決めるのですが、この紛争では重要案件として5人の裁判官で進められたそうです。これだけ、重要な案件とみなされていたわけです。
日本の産業は、国内市場の鈍化により、海外市場が重要になってきています。そして商品競争力を支える知財ソフト面での法的保護が、重要になってきています。海外への進出とは、現地に工場を建設したり、原料調達ルートを開拓するイメージがありますが、商品の知財関係のマーケティングも忘れてはならない要素なのです。
社長の皆さん!
海外で事業を展開する時、自社の製品の知財権利関係は早めに確認し、手を打ちましょう。後手に回ると、ビジネス上の大きな機会損失を生む可能性があります。
【ここがポイント!】
過去の意匠権の判例をチェックしてみる
特に中国は、裁判所の判例トレンドがあるので、要注意です!
詳しいことは、お近くの弁理士に御相談下さい。