当時の腕時計の常識を覆したアルバ・スプーン
セイコーが1995年に世に送り出したアルバ・スプーンは、その斬新なデザイン性と売れ行きでそれまでの腕時計の常識を覆しました。当時は1ヶ月に1万個売れれば良いと言われていましたが、発売後に10万個売れる記録的ヒットを叩き出したのです。
発売から1年間で100万個が売れたの「アルバ・スプーン」はヒットの予感があった時点で、日本だけではなく外国でも意匠権を取得しました。
そのアルバ・スプーンは、セイコーがオリジナル・ヒット商品の開発に熱意を燃やした結果生まれた商品です。普及型ブランドであるアルバの最新シリーズとして企画され、久米寿明氏、所村吉将氏がデザインしました。
その成功の鍵は、ターゲットを明確にして、行動様式や価値観などを徹底的に研究したことにありました。ターゲットとなったのは「ボーダー」と呼ばれる、スノーボードやスケートボードなどフリー・スタイル・スポーツを楽しむ若者層です。時代の最先端を行くボーダーは、マス・ターゲットのリーダーでもあります。
デザイン部門の担当者は、実際にこうした若者たちが集まる場所に出かけ、その場の雰囲気をつかみ、また彼らの生の声も聞いて歩いたそうです。そこで出てきたイメージは、「ぷっくりしていてあたたかい感じ」だったのです。
類似品の実物を買い集めて、差し止めの申請書に写真を添付
最終的なモデルができた段階で、ヒットの予感はあったようです。95年11月初句に意匠登録出願し類似品出現直後に早期審査制度を申請、96年9月に意匠権を取得しました。日本のほかに外国でも多数、意匠権を取得しています。
空前のヒット商品とあって、類似品は早くも96年2月に出回り始めました。96年秋以降流通業者などに警告文書を出しましたが、一向に類似品が減らないことから、同社は97年2月税関に対して類似品の輸人差し止めを申請しました。ちなみに、税関では年間約2000万件を超える輸入申告があり、的確に知的財産侵害物品の差止めを行うには、権利者から識別ポイント等の情報提供が必要不可欠とされています。
「類似品の実物を買い集めて、差し止めの申請書にも写真などを添付しました」と同社知的財産部特許管理課の渡辺京子さん。その数は、40種にのぼります。申請から5日後、横浜税関で8千2百個の”スプーンもどぎが差し止められました。
「意匠登録の重要性を、実感するケースでした。社内でも知的財産権に対する認識が、高まっています」と特許管理課長の仲村典恭さんは言います。
同社は香港での差し止め訴訟、意匠登録の告知などを展開、意匠権によってスプーンのアイデンティティを守っています。
取材協力/セイコーインスツル株式会社
社長の皆さん!
今回の事例は「工業デザイン」を守る意匠権がテーマです。工業デザインは、その特徴がそのまま外観に表れているので、発明と比べると模倣が簡単です。
このため工業デザイン商品については、模倣品を迅速に市場から排除することが重要です。
【ここがポイント!】
(1)類似品の出現に目を光らせて、素早く早期審査制度の申請をしたこと
(2)輸入差し止めのために類似品を買い集めて、写真を添付したこと
この事例では、早期審査制度の活用によって迅速に意匠権を取得することで、類似品が市場に出回っている期間を短縮化することに成功しています。さらに税関に類似品の写真を提出して差し止めの対象物を分かりやすく示すことで、差し止めの実効性を高くすることにも成功しています。