ワンランク上のお寿司が握れる夢のロボット
一つのアイディアが、業界の常識を変えてしまうことがあります。
今回ご紹介する「職人ロボット助人」を開発したスズモ(鈴茂器工)は、米飯加工ロボットや食品加工機械、自動包装機械などを手がけるメーカーです。特に寿司の製造機械では20年以上の実績があり、過去に数々のヒットを飛ばしてきました。
のり巻、いなり寿司、握り寿司、手巻き寿司、軍艦巻き…。ご存知の通りお寿司にはいろんなタイプがありますが、スズモの製品はあらゆるタイプのお寿司を大量に作ることを可能にしてきました。
そんな歴史を持つスズモが業界でも注目を浴びたのが、この「寿司職人 助人」です。外観は普通のお櫃にしか見えませんが、1時間で最高1200個の握り寿司を作れるのです。熟練の寿司職人さんでも1時間で握れるお寿司の数は300個前後なので、人間の4倍の生産能力がある優れモノなのです。しかも数だけではなく、人間の感覚に近い仕上がりも実現したのがこの助人の凄さなのです。
現場のニーズを捉えた製品開発
人間の握り感覚に近づける秘密は、助人の独自の構造にあります。
最初に、寿司飯をスクリューコンベアで下部から上部へ押し上げながら圧縮します。次にそのコンベアの終端に設けた成形孔より、断面が小判形の棒状に押し出します。最後に、これを所定の厚さで横方向に次々とカットして、シャリ玉を連続的に製造するのです。
この構造の大きな特徴は、形で成形するものとは完全に異なります。コンベアで移送される間に空気まで抱き込み、まるで手で握ったかのような“ふわっとしたやわらかな食感”を実現したのです。しかもその握りの柔らかさも、10段階に調節できます。
またお寿司は握る時の温度と湿度が大事なのですが、それらの調節も可能になっています。分解洗浄も簡単で、持ち運びもできるように1個の重量は16kg~30kgまで調節でき、家庭用電源でも使用できるように設計されています。
従来の製造機械は外観が機械そのものといったデザインが多く、サイズも大型なものが多かったため、高級店はもちろん家族連れに大人気の回転寿司チェーンなどでも敬遠されてきました。このお櫃のような外観は、お客様から見える厨房に設置しても違和感のないデザインになっています。
またこの助人は、人手不足の解消にも大きく貢献することになりました。現場での職人さん不足や、後継者問題に関しても、熟練の寿司職人の完成度に高い握りの仕上がりが効果を発揮したのです。
営業本部取締役の石坂英雄さんは、こう語ってくれました。
「当社の長年にわたる技術的蓄積を全て凝縮したものです。これまでの当社の機械より、1ランクも2ランクも上の寿司が握れます」
助人は企画から機械の小型化を実現し、デザインを決め、試作品をモニターに出し、改良を加えて発売するまでに5年かかっているそうです。値段も1台126万円、リースならば1日840円というのも好評で、1999年秋の発売以来順調な売れ行きを見せているそうです。お客さんにはまだ抵抗感があるので発表するところは少ないらしいですが、立ち寿司でも導入が進んでいるそうです。
業界の常識を変えた助人。その躍進は、まだまだ続くと思われます。
取材協力/鈴茂器工株式会社
社長の皆さん!
今回の事例は「従来、職人の技能に頼っていた工程を自動化した技術的アイデア」を守る権利(特許権)がポイントです。
また業界の常識を覆す画期的な知的財産ですから、複数の特許や実用新案登録、意匠登録、商標登録など包括的に権利化することも重要となります。
【ここがポイント!】
(1)複数の技術的アイデアが含まれるため、権利化するアイデアを設定すること
(2)課題(職人技の自動化)に最も寄与したアイデアを見極めること
(3)他社に特に模倣されたくない機構・構造はどれかを検討し、出願内容に反映する
今回の例では、市場規模も広範で寿司ビジネスに直結するアイデアですので、継続的な研究開発と長期的な権利化戦略、特許制度以外での権利化が重要です。また今後は、日本食の海外展開も益々盛んになります。海外での権利化の検討もオススメします。