ノウハウ(営業秘密)の概要
農林水産業の知的財産は、特許権、意匠権、商標権、育成者権、著作権等の知的財産権や地理的表示(GI 登録)によって保護されるものだけではありません。
農林水産業に携わる皆さんが普段行っているちょっとした工夫や顧客リスト、地域のネットワーク等も、「ノウハウ(営業秘密)」と呼ばれる立派な知的財産です。特に近年、IoT 農業を通じてデータ化されたノウハウが、海外へ流出してしまうという懸念が高まっています。
農林水産業におけるノウハウ例
技術上の情報
- 代々引き継がれてきた栽培方法
- 施肥のタイミング
- 効率的な耕耘方法
- 土づくりの工夫
- 植物の品種
- F1 品種の種子親・花粉親
- 蓄積された栽培データ
- 自分で編み出した肥料の量とバランス
- 施肥のタイミング
- 森林資源の管理法
- 伐採方法
- 製材方法
- 木材の利用法
- 漁法
- 自分で工夫した漁具(漁網)
- 漁船
- 漁業機器
- 養殖技術(環境、作業方法)
営業上の情報
[出典]農林水産省「農ハウを守り活用して農業をビジネスに。」より一部抜粋
事例で見るノウハウ(営業秘密)の保護と管理
(1)不正競争防止法による「ノウハウ」の保護
自らのノウハウは、特許権や育成者権等の知的財産権を有していなくても、「営業秘密」として不正競争防止法によって保護される場合があります。特許等で権利化を図ると、内容が公開され、却って模倣を招くことがあるため、営業秘密として非公開のまま管理することがむしろ適切な場合もあります。
たとえば
従業員、従事者によるノウハウ流出
- 従業員や新規就業等で受け入れた従事者が、生産ノウハウを伝授してから間もなくして離職し、競業他者に転職することにより、先に伝授した生産ノウハウで作られた農林水産物が市場に出回ってしまった。
- 取引先・顧客リスト等の経営に関する情報が、従業員の転職、あるいは、在職中の故意行為によって競業他者へ漏洩してしまった。
事案 |
不正競争防止法 |
◆ 従業員、従事者によるノウハウ流出
● 従業員や新規就業等で受け入れた従事者が、生産ノウハウを伝授してから間もなくして離職し、競業他者に転職することにより、先に伝授した生産ノウハウで作られた農林水産物が市場に出回ってしまった。
● 取引先・顧客リスト等の経営に関する情報が、従業員の転職、あるいは、在職中の故意行為によって競業他 者へ漏洩してしまった。
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◆ 営業秘密の侵害行為
下記3条件を全て満たすことを条件に、営業秘密の不正取得行為等から保護されます。
◇ 秘密保持性
・ 秘密として管理されていること
◇ 有用性
・ 有用な営業上又は技術上の情報であること
◇ 非行知性
・ 公然と知られていないこと
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(2)先使用権による「ノウハウ」の保護
自己のノウハウと同じ技術について他者が特許を取得してしまうことがあります。その際、従前からそのノウハウを自己が有していることを証明できれば、「先使用権」を主張することができ、他者からの特許権行使に対抗することができます。そこで、公証制度又はタイムスタンプを利用して、ある時点におけるノウハウの存在を証明できるようにしておくことが重要です。
(3)契約による「ノウハウ」の保護
技術提携やAI・ICT事業者との協業は事業拡大や生産・経営の高度化に有効ですが、提供する秘密情報やデータ等の取り扱いに関する契約を予め結び、ノウハウの利用範囲をコントロールする必要があります。
事案 |
契約による対策 |
●大手ICT事業者との技術提携契約により、自身の製造ノウハウを惜しみなく提供したところ、ノウハウがデータ化され、競業他者にもデータが提供されてしまい、結果として自己の売上減を招いてしまった。
●提携先の従業員や職員が他の事業者に転職したり、独立したりすることにより、競業他者へ情報が流出してしまった。
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下記の条項を入れた「秘密保持契約」を予め結ぶという対策が必要です。
◇秘密保持条項
・ノウハウ流出防止のため第三者へ秘密情報の開示・漏洩を禁止する条項
◇競業避止条項
・契約期間中に同種若しくは類似の事業を行うことを禁止する条項
秘密保持、競業禁止の義務明確化
また、第三者による利活用を前提にデータを提供するような場合も、農林水産省が策定した「農業分野におけるAI・データに関する契約ガイドライン」に準拠した契約を締結し、データの利用権限等についてコントロールすることが必要です。
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(4)種苗管理と知財ミックスによる高級ブランド化
夕張メロンは一代交配種であり、父親と母親の優れた性質を、その子一代に限り発揮する遺伝学上の特性を利用した品種です。夕張市から親の種子が市外に出ないように厳重に管理されています。
営業秘密としての「種苗管理」とあわせて、「商標登録」、「地理的表示(GI 登録)」も活用して、知財ミックスによるブランド化も図られています。