農水知財の活用Q&A

品種

植物の新品種を外国でも保護するためにはどのようにすればよいでしょうか。

植物の新品種については、希望の国へ品種登録出願を行い、育成者権を取得することにより、保護を受けることができます。ただし、育成者権は、各国ごとに独立した権利であるため、外国での保護を受けたい場合は、その国毎に、育成者権を取得する必要があります。また日本国内で、既に育成者権を取得している場合でも、それだけでは、外国で新品種の保護は受けられませんので、ご注意ください。
例えば、日本国内で既に品種登録出願を行っている新品種について、米国と中国においても保護を受けたい場合、米国と中国のそれぞれの国において、品種出願を行い、所定の審査手続を経た後に、それぞれの国での育成者権を取得することで、これらの国において、新品種の保護を受けることができるようになります。
外国で育成者権を取得するためには、その国で、品種登録出願を行う必要があります。また出願後の審査も基本的には(*)、各国ごとに行われますので、国内での品種登録出願の審査と同様に、その国において特性審査(栽培試験)を行うことが基本となります(*審査協力が可能な国の場合、現地での試験によらず、国内の審査データを利用できる場合もあります)。その場合、出願後、審査に先立ち、栽培試験用の種苗をその国の審査当局に送る必要が生じる場合もあります(種苗の海外への輸送に関しては、植物検疫や当該国での輸入許可取得手続等が必要となる場合もあります)。日本出願から1年以内であれば優先権を利用して出願することができます。
海外への品種登録出願や各国の制度については、「植物品種等海外流出防止対策コンソーシアム」のHPが参考になります(https://pvp-conso.org/)。
弁理士は、海外での品種登録出願、権利化(育成者権の取得)に関する手続のサポートも行っており、海外を含む農林水産分野に精通した弁理士も多くおります。
植物新品種の外国での保護については、日本弁理士会の農林水産知財に関する「無料相談窓口」(https://www.jpaa.or.jp/nousui-ip/)までご相談ください。

今回の改正種苗法では、育成者権の侵害があったとき、その立証が容易になると聞きました。
そもそも育成者権の侵害の立証は、多くの場合、どのようにおこなわれるのでしょうか。
種苗法の改正によって、どのように変わるのでしょうか。
また将来起こるかもしれない侵害に備えて、今後、何に気をつけ、また、何をしておくとよいでしょうか。

1.侵害の立証が難しいのは、権利植物と疑わしい植物を実際に比較検討するという、現物主義の考え方を、種苗法は採用しているためです。基本は現物対比ですが、DNA鑑定も使われたこともあります。
侵害立証に際して難しい点として、(1)登録された本物かどうか争われることがあること、(2)被疑植物の確保ができるか、(3)対比できるか(対比栽培の必要)などを挙げることができます。

2.(1)権利者は、登録品種である植物を提示する必要があるので、権利植物を保全する必要があります。植物は、種を取り続けて栽培すると、親と少しずつ変化(継代変化)することがあるので、本物であるか争いになる可能性がありますので、登録された品種の本物をしっかり準備できるようにしてください。
(2)類似していると思われる植物(「被疑植物」という。)を入手してください。被疑植物を権利者が自分で収集する必要があるので難しくなる前に確保するようにしてください。
(3)登録された植物を提示できずに、比較できなかった例としてなめこ事件があります。なめこの事件では、栽培して菌糸は成長したが、キノコが発生せず、比較することができずに、侵害と認定されなかったケースです。

3.農水省では、独立行政史法人種苗管理センターで相談・支援体制をとっているので相談できます。全般の相談と被疑植物の寄託、対比栽培などができ、品種保護Gメンが置かれています。

4.今回の種苗法改正では、侵害の立証は現物比較が基本ですが、特性表による推定が可能となりました(「種登録簿に記載された登録品種の審査特性により明確に区別されない品種は、当該登録品種と特性により明確に区別されない品種と推定する(第35条の2)」)。
(1)この規定の追加によって、被疑植物との対比として特性表の記載を利用することができることとなりました。したがって、特性表をしっかり記載することが大切です。
(2)特性表は出願人が記入して出願し、農水省の栽培試験の結果で変更されることがあります。この変更に対して、出願人は訂正を求めることができることになりましたが、出願時に記載した項目に限られます。例えば、栽培試験の結果から、出願時に記載していない葉について記載された場合、訂正を求めることができないこととなります。
(3)特性表の記載と輸入植物を比べることも可能となるなど、実物比較が不要となるので、警告などの権利行使が容易になると思われます。
(4)被疑者は疑義があった場合は、現物比較を要求できることになります。

育成者権を取得しています。侵害立証の負担が大きいのですが、軽減する方法はありますか。違法種苗の販売額を損害額として賠償請求訴訟しても、賠償額よりも訴訟費用の方が大きく、訴訟をやりにくいのですが、侵害をやめさせる手段はありませんか。

1.種苗法は、現物主義を原則としており、権利植物と被疑植物の現物を対比することが必要とされていました。立証責任がある権利者は、双方の植物を準備する必要があります。権利植物の保全は権利者の責任ですが、栽培を何代も続けていくと、登録した時から変化してしまうことがあります。無意識に自分の好みに選別していたり、気候条件の影響を受けて自然淘汰(高温順応など)されたりして、気づかないうちに変化している可能性がありますので、権利植物を保全してください。

2.2021年の改正法によって、侵害の立証は現物比較を基本としますが、特性表による侵害の推定が可能となりました(「種登録簿に記載された登録品種の審査特性により明確に区別されない品種は、当該登録品種と特性により明確に区別されない品種と推定する(第35条の2)」)。登録してある特性表の記載と被疑植物と比較して、警告などができるようになるので、立証が容易になることが期待されます。

3.農水省の独立行政法人種苗管理センターでは相談・支援体制があることは、今までと同じように利用できます。全般の相談と被疑植物の寄託、対比栽培などができ、品種保護Gメンが置かれています。

4.刑事罰を利用することで、負担を軽減することができる可能性があります。少量でも利用可能です。
一般に、違反種苗によって発生する損害額の認定は、訴訟費用や時間、エネルギーに対して大きくないので、損害賠償請求などの民事訴訟を躊躇することがあります。近頃、種苗法違反者を警察が逮捕したという報道がありした。逮捕によって、違法行為をやめさせることができると思います。必要であれば、違法行為が確定した後に損害賠償請求もできます。事例としては、ブドウの挿し木苗をフリマなどで販売し、販売目的で所持していたので逮捕された例、種苗業者が無許可でイチゴの苗を増殖して販売して逮捕された例があります。
刑事罰は、事実上告訴することが前提ですので、警察を納得させる証拠を用意する必要があると思われます。例えば、権利者が告訴に際して準備すべき事項としては、被疑植物の発見、確保、侵害の立証などが挙げられます。
ただし、登録品種が登録要件を欠いていて無効理由が存在する恐れがあるとして、権利濫用に該当することを理由に侵害を認めなかった判例もあったので、注意してください。

新品種は、種苗法以外でどのように保護することができるのでしょうか。

植物の新品種は、特許法の保護対象となりますので、特許法によって保護を受けることができます。品種の名称の保護は商標法によって保護を受けることができます。

(特許法による保護)
特許法は、植物新品種そのものを保護するわけではありません。しかし、「品種」に限られず、それを超えた「種」レベルの保護が可能です。例えば、除草剤耐性を備えた大豆(DNA改変)、青系花色を有する植物及びその作出方法(青いバラ)、低カリウム野菜などが特許されています。特許を受けるための要件は種苗法とは異なります。つまり、植物種ごとに決められた重要な形質に着眼した判断はされません。新しく作り出した、産業上利用できるものであれば、保護の対象となります。
具体的に言えば、「青いバラ」が特許されている場合、「つる性の青いバラ」を新品種として作出した場合には、特許出願ができます。この場合、この新品種が特許されるかどうかは、すでに特許されている青いバラから、「つる性の青いバラ」を作出することが、どの程度難しいのか、という点が特許されるかどうかのポイントになりそうです。種苗法で求められる長期間の栽培実績は不要で、出願前に特定の寄託機関に寄託するのが一般的です。
また、特許法では、植物自体の外にも、栽培方法や育種方法、その植物の加工方法、加工品等、多面的な保護を受けることができますので、ビジネス展開と合わせて考えることが大切です。特許権の存続期間は、出願日から20年です。

(商標法による保護)
名称については商標登録を受けることもできますが、品種登録された名称は登録を受けられません。例えば、イチゴの「あまおう」は、商標登録されていますが、登録品種名称は「福岡S6号」です。一方で、商標法では、種苗以外、例えば、その種苗から得られた果実の加工品(ジャムなど)についても「あまおう」を商標登録できます。商標権の存続期間は10年ですが、更新すると商標権をさらに10年間存続させることができます。ある種苗から得られた果実を使った色々な商品に、同じ名称を広く使用して、ブランドをつくる上では、商標法をうまく使うことが重要です。

(種苗法による保護)
種苗法は、簡単に言えば、新品種を保護するための法律で、一定の要件(区別性・均一性・安定性・未譲渡性・名称の適正性)を満たせば、品種登録がされ、育成者権(保護期間は25年間(果樹等永年植物30年間))が発生します。
既存品種と植物体の大きさや色、形などの重要な形質によって、明確に区別でき、同時に栽培した種苗の形質が十分に類似しており、その形質が増殖後も安定していて、一定の時期より前に譲渡されていない(注1)場合には、品種の名称が、既存の品種名称や登録商標と紛らわしくないことを条件に、品種登録されます。また、国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 種苗管理センターへ、一定の量を送付する必要があります(注2)。

以上のように、権利の存続期間も、特許権、商標権、育成者権で異なり、それぞれの権利で保護される範囲も異なります。ビジネスプランに沿ってこれらをどのように組み合わせるかを検討することが必要です。また、種苗、特許及び商標は、いずれも外国で権利を得ることが可能です。各国で登録することが必要になりますので、ご相談ください。

注1:国内譲渡の場合には、出願日から1年以上前、外国譲渡の場合には、日本での出願日から4年(林木、観賞樹、果樹などの木本性植物は6年)以上前。

注2:農水省のホームページの「様式一覧」からダウンロードできる「出願品種種子・種菌送付書」と一緒に送付します。

日本で育成された種苗の新品種が海外に不正に持ち出されて栽培されているというニュースを聞きます。海外に流出した場合のリスクと、流出防止対策について教えてください。

(1)リスク
新品種の種苗がいったん海外に不正に流出してしまうと、種苗は無限に殖やすことができるので、流出先の国で栽培され、その国の中で販売されるだけでなく、第三国や日本に輸出されるリスクがあります。有名な例として、シャインマスカットが挙げられます。シャインマスカットの苗は複数の国に流出し、それらの国で生産・消費されるだけでなく、東南アジア諸国にも輸出されています。またイチゴについては、レッドパールと章姫の例が有名です。これらの品種は海外に不正に持ち出されたものではないものの、海外の特定の生産者に期間を限定して栽培を許諾したところ、苗あるいは種が第三者に流出して、無許可の栽培が行われた結果、当該国で流通するイチゴの主要な品種になってしまいました。さらには、レッドパールと章姫が交配されてソルヒャン(雪香)という新品種まで作出されています。ソルヒャンは日本にも輸出され、一部のスーパーマーケットで販売されているようです。
このように、新品種が海外に不正に流出すると、日本の育成者権者は正当な権利を行使することができず、生産者は国内外の市場を奪われ、いずれも経済的な損失を被るリスクがあります。また、農林水産省は、令和2(2020)年3月に閣議決定した「食料・農業・農村基本計画等」に基づいて農産物の輸出拡大を図っていますが、日本で育成された新品種が次々に不正に海外に流出すると、日本産と海外産の同じ品種が市場で競合し、輸出拡大が阻害されるリスクがあります。

(2)流出防止対策
農林水産省は、新品種の持ち出しや栽培を制限するための対策として、種苗法を改正して、育成者権者は、新品種を持ち出すことができる国や地域を指定したり、国内で栽培可能な地域を指定したりできるようしました(令和4(2022)年6月17日施行改正種苗法第21条の2第1項)。しかしながら、新品種を育成者権者が指定していない国や地域に不正に持ち出す意図のある者に対しては、上記法改正は必ずしも万全ではありません。そのため、少なくとも日本の新品種が流出するリスクの高い国については、不正に流出する前に、先回りしてそれらの国の種苗法で品種登録を受ける必要があります。海外の品種登録については、「農水知財の活用Q&A」の「品種」の中の「Q 植物の新品種を外国でも保護するためにはどのようにすればよいでしょうか。」に詳細が記載されていますので、そちらをご参照ください。また、植物新品種の外国での保護については、日本弁理士会の農林水産知財に関する「無料相談窓口」(https://www.jpaa.or.jp/nousui-ip/)でもご相談いただけます。
最後になりますが、新品種の流出防止には水際対策も重要と考えられます。今後の課題ですが、日本から新品種が不正に流出しやすい国については、日本の税関とそれらの国の税関の間で水際対策を強化する取り組みが必要と思われます。また、育成者権の侵害等の紛争が発生した場合には、被疑侵害品種と登録品種が同一か否かを判断する必要があります。現在はあまり行われていませんが、紛争の早期解決のために植物品種のDNA鑑定を普及させる必要があると思われます。

参考;
トピックス6 植物新品種の海外流出対策:農林水産省 (maff.go.jp)
日本発の果実 中韓に流出 - 産経ニュース (sankei.com)
・海外への品種登録出願や各国の制度については、「植物品種等海外流出防止対策コンソーシアム」のHPが参考になります(https://pvp-conso.org/