農水知財の活用Q&A

地理的表示(GI)

商標登録とGI登録が競合する場合について教えて下さい。
例えば、GIが登録された場合、そのGIと同一の商標の登録や使用が制限を受けることがありますか。或いは、登録商標があった場合、その商標と同一のGIの登録制限又は使用が制限を受けることはありますか。もしあるとしたら、それはどのような場合でしょうか。

(1)商標登録の前にGI登録がなされた場合、商標法にはGI登録を理由として出願を拒絶する規定はないので、GI登録された名称と同一の名称について商標登録を受ける可能性は残ります。しかし、GI登録を受けることができる名称は、地域の伝統的産品を表示するものとして、商品等の出所を識別する機能を失っていたり、需要者に広く知られた名称となっていたりする場合には商標登録を受けることができません。

(2)GI登録の前に商標登録がなされた場合、登録商標と同一の名称については、商標権者自身が申請を行った場合および商標権者の承諾を得た場合を除きGI登録を受けることができません。この場合、商標権者は、登録されたGIの適法な使用に対し商標権の行使ができなくなること、GI登録申請者への承諾を拒んだ場合、自身が登録商標の使用をしていないと不使用取消審判を請求されるおそれがあることに注意が必要です。

(3)同一名称について、異なる者がGIと商標の登録をそれぞれ受けた場合、両者の「競合関係」(両登録の一方の使用が他方の存在により制限されるか否か)は、下記のように整理することができます。
①GI登録よりも先に商標登録がなされた場合、商標権者による登録商標の適法な使用行為は、後から登録されたGIにより制限を受けません。
②GI登録よりも後に商標登録がなされた場合、登録商標の使用は、GI登録を受けた産品又はこれを主な原材料として製造、加工された加工品についての使用、商標登録出願がGI登録の前である場合における、指定商品・役務についての登録商標の使用、いわゆる先使用権が認められる場合(GI登録から7年間経過後は、混同防止表示を付すことが必要。)等に限り認められます。
③GI登録との先後に関わりなく、商標権の効力は適法なGIの使用には及びません。

(1)地理的表示(GI)の登録を受けた産品の中には、都道府県や国単位の広範囲の地理的領域を原産地とするものがあります。これらは産地の地理的特性とリンクした確立した品質を有していないようにも見受けられますが、こうした産品が登録を受けられるためには、産品がどのような特性等を有するものであればよいのでしょうか。
(2)GI登録を受けた産品の中には、複数の団体が共同で申請を行ったものもありますが、複数の団体が新たに共通のブランドを立ち上げ、これを地理的表示として登録を受けることは可能でしょうか。

(1)について
特定農林水産物等の名称の保護に関する法律(GI法)における「生産」とは、農林水産物等に特性を付与又は保持するために行われる行為をいい(GI法2条4項)、産品の特性を⽣み出すことのできる⾃然条件や⼈的条件を備えた場所、地域又は国が「⽣産地」となります。生産地の範囲は、特性を付与又は保持するために必要十分な範囲であれば、特定の場所や地域に限らず、都道府県や国が適正な生産地の範囲として認められる場合があります。なお、生産地内の全ての地域でくまなく生産されていることは要求されません。

清酒については、「地域(「はりま」等)や都道府県(「山梨」)を生産地とするものに加え、生産地の範囲が国単位である「日本酒」が国税庁長官の指定を受けています。清酒に関しては、地域や醸造元毎に特色を有するものも多く存在する一方、それらに共通する特性を付与する要因として、稲作が盛んで、四季が明確に分かれており、米に加え清浄な水が全国で得られること等の自然的要因、その製造が古くから国の管理下に置かれ、杜氏制度の確立、醸造技術の伝承、改良及び全国への普及が公的機関によっても進められてきたこと等の人的要因もあって、一国の範囲内で、生産地に根ざした共通の特性を有する産品として、GIの指定がなされています。このように、地域毎に品質や特性に差異があっても、生産地である地域内で、その特性に根ざした共通の特性を有している限りにおいて、GI登録を受けることができる場合があります。

(2)について
●複数団体による共同申請
我が国のGI法においては、複数の団体による共同申請が可能であり、申請書に記載された産品の特性を満たしていれば、団体毎に異なる品質基準や生産方法を定めることも可能です。なお、国によっては異なる要件が定められている可能性があるので、外国に直接申請を行う場合には注意が必要です。
●産品の生産実績
また、GI登録を受けることができる産品は、特性を有した状態で概ね25年以上の生産実績が必要(注)ですので、これから開発を行おうとする産品は登録対象とはなりません。なお、25年という期間は法定期間ではなく、特性が確立するのに要する期間の目安(1世代程度)として、各国の制度を研究した上で定められたものです。さらに、登録される産品は、名称からその産品が特定できる必要があります(GI法2条3項)。

注:なお、25年以上の生産実績は必須ではなく、知名度などを考慮して、生産実績が25年に満たなくとも、登録の可否は弾力的に判断されます。

●結論
単一の団体による申請か複数の団体による共同申請であるかに関わりなく、これからブランド化を行うような現時点で使用実績がない名称は登録対象とはなりません。なお、名称については25年程度等という使用期間の目安は特に定められていません。

GI登録された表示の不正使用を見つけました。行政に取り締まっていただきたいのですが、どのような手続きが必要でしょうか。また、GI登録された表示の不正使用を行政が取り締まった事例はあるのでしょうか。

GI登録された表示の不正使用があると思料する場合には、農林水産省令で定める手続きに従い、農林水産大臣に申し出て適切な措置をとるべきことを求めることができます(地理的表示(GI)法第35条第1項)。申出の受付は、地方農政局長及び北海道農政事務所長に委任されており(地理的表示法施行規則第30条第3号)、地理的表示等の不正表示通報窓口が、農林水産省、北海道農政事務所、東北農政局、関東農政局、北陸農政局、東海農政局、近畿農政局、中国四国農政局、九州農政局及び内閣府沖縄総合事務局に設置されています。不正表示通報窓口に寄せられた情報をもとに、国が立入検査を行っています。
申出は、不正表示通報窓口まで、郵便、FAX、電話、メール等にて連絡すればよいことになっています。情報提供の内容は、疑義産品の種類、疑義産品の名称、疑義業者の名称及び所在地、疑義産品の販売店舗及び住所、不正表示であると思う理由等です。郵便、FAX、メールの場合には、情報提供用紙のフォーマットが用意されています。
https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/gi_mark/other/style1.doc

情報提供用紙

情報の詳細について農林水産省又は地方農政局の担当者が尋ねる場合がありますので、匿名希望の場合でも、極力、氏名、連絡先等をお伝えください。通報者の個人情報については、保持されます。また、案件処理に当たり、通報者の了解なしに個人情報を他へ伝えることはありません。

地理的表示等の不正表示の取り締まり状況の報告書(国内外における地理的表示(GI)の保護に関する活動レポート)については、農林水産省のHP https://www.maff.go.jp/j/shokusan/gi_act/gi_mark/をご参照ください。

私どもは滋賀県湖東地区の一農業団体です。古くから「〇〇菜」と呼ばれている伝統野菜を栽培しています(注:「〇〇」は、古くから現在に至る町名)。数百年前に、〇〇町の一寒村で見馴れぬ「蕪」が発見され、これを漬物にしたところ、桜色の美しい色に発色しかつ美味であったので、その後、全国に広まっていったとされています。当該〇〇町を中心とする地域では、伝統野菜として古来より現在に至るまで延々と栽培されてきていますが、栽培量が最大の地区は、現在では、「〇〇町」から滋賀県の他の地域に移っています。また、この「〇〇菜」は、現在は一般化して、全国で栽培されています。このような状況において、現時点で「地理的表示」の登録を受けたいと考えていますが、登録要件を充足しているかどうかの点で、心配しています。

地理的表示の登録を受けるためには、以下の要件を充足する必要があります。
先ず、「産品に関する要件」として、地理的表示法に規定される特定農林水産物等に該当することが必要です。つまり、特定の生産地に根付いた産品であることが必要です。そのためには、産品が特定の場所、地域又は国を生産地とするものであることや、品質、社会的評価その他の確立した特性が特定の生産地に主として帰せられることが必要とされており、概ね、25年の生産実績が必要であるとされています。
また、「産品の名称」に関する要件として、①普通名称や、上記特定農林水産物等の事項を特定できない名称は登録できません。また、②登録商標と同一又は類似の名称も登録できません。名称が長年使用されていると、普通名称化している場合が多くなります。名称の使用については、25年の使用実績は要求されませんが、使用実績自体は必要です。長野県木曽地方の特産「すんき」(漬物)のように、「産地」+「商品名」でなくても登録できます。
生産者団体・生産に関する要件として、①正当理由なしに団体への加入を拒否することはできません。また、品質を保証するために、②生産行程管理業務の遂行が必須とされています。
ご質問の、「〇〇菜」は、数百年前から滋賀県の〇〇町で延々と栽培し続けられている伝統野菜ですので、産品に関する要件は充足していると考えて良いでしょう。
また、「〇〇菜」は、一般化して全国で栽培されているとのことですので、その名称自体は一般名称化していると考えられ、登録要件を欠いていると言えるでしょう。しかし、「〇〇菜」は、滋賀県の特定地域、すなわち「〇〇町」で伝統野菜として延々と何百年も栽培されてきているのですから、「近江〇〇産」というような冠を「〇〇菜」の前に一体表示すれば、すなわち、「近江〇〇産〇〇菜」とすれば、産品名称に関する要件はクリアできると考えられます。
また、生産者団体・生産に関する要件として、上記①と②の要件が必須ですので、団体への加入に関して閉鎖的であってはならない他、産品の特性や品質を維持するために、産品の生産行程を管理する業務が遂行されることが条件となります。

地理的表示法とはどういう法律なのでしょうか。地域団体商標との違いを踏まえてご説明ください。

地理的表示法は、GI法と略称されることもありますが、正式には、「特定農林水産物の名称の保護に関する法律」というもので、比較的新しい法律です。1994年に作成されたTRIPS協定に基づいて2014年に制定され、その目的は、特定農林水産物等の名称の保護に関する制度を確立することにより、特定農林水産物等の生産業者の利益の保護を図り、もって農林水産業及びその関連産業の発展に寄与し、併せて需要者の利益を保護することにあります。
地理的表示法は、商標制度のように識別標識を保護するというよりは、農林水産物等の産品の品質を保護する制度です。例を挙げますと、「神戸ビーフ」(登録第3号)は、今日、最高級の牛肉として世界的に知られています。この牛肉は、兵庫県で生産される優れた但馬牛を素牛として、最低月齢28か月以上、平均32か月程度かけて理想の肉質に近づけていく牛肉です。脂質の良さを決定する成分であるモノ不飽和脂肪酸割合が高く、筋肉の鮮紅色と脂肪の白色が鮮やかに交雑する最高級の「霜ふり肉」となり、賞味すれば、舌ざわりが良く、とろけるようなまろやかさが口一杯に広がり、特有の風味をかもし出す肉質として全国的/世界的に評価を受けています。
地理的表示の登録を受けるためには、農林水産省に申請する必要があります。一定の審査を受けて、一定の登録要件を充足している場合に限り登録されます。
登録されるためには、「名称」と「産品」と「生産者団体」がポイントになります。「名称」は、原則、産地(例:兵庫県)と産品(例:牛肉)を特定していなければなりません。「産品」は、品質や社会的評価等が確立した特性を有すること、当該特性と生産地が結びついていること、生産実績(約25年の生産期間)があることが必要です。「生産者団体」は、生産業者を構成員とする団体であること、団体への加入が自由であること、生産行程管理業務が実施されていること、が条件となります。
商標法には、地域と商品の普通名称が結びついた標章を保護する制度として「地域団体商標」(例:有田みかん:三ヶ日=和歌山県有田地域、みかん=商品の普通名称)があります。地理的表示は、この地域団体商標と類似するところがありますが、登録要件が異なります。
地理的表示の登録主体である生産者団体は、法人格を必ずしも要求されませんが、地域団体商標の場合は、法人格が必要です。また、地理的表示の場合は、品質を担保するために「生産行程管理業務規定」の提出が必須ですが、地域団体商標の場合は、品質を担保するための資料の提出は必要とされていません。さらに、地理的表示では、「伝統性」が重んじられていて、約25年間継続生産が要求されますが、地域団体商標は、それに代わるものとして、「周知性」が必要とされています。
地理的表示は、2022年10月現在で、122件の登録がされています。その中には、長年使用された実績のある「登録地域団体商標」が「地理的表示」としても登録される例も多く見られます(例:夕張メロン、市田柿)
地理的表示は、品質管理のための手間や資源が必要となりますが、①国のお墨付きのGIマークを製品等に付することができ、②第三者の不正行為に対しては国が規制してくれる、③登録に関する費用が安い、等の利点があります。品質の優れた製品については、地域団体商標に加えて、地理的表示の申請も検討することをお勧めします。

GI登録がされていれば外国で模倣されることはなく、また当該外国において自由に生産・販売ができるのでしょうか。

GI登録は、外国での保護が自動的に実現する制度ではありません。
原則として、GIの保護は、当該制度を有する国ごとに行われるものです。日本以外の国で、日本のGIの産品を保護してもらうためには、当該外国の地理的表示保護制度における審査等を経て保護を認めてもらう必要があります。
なお、我が国と一部の国と地域ではGIの相互保護が始まっています。相互保護とは、申請手続きの一部を簡略化して互いの国や地域のGIの保護を行うもので、具体的には保護を求めるGIのリストを相互に交換しあうことにより行われています。
令和4年11月現在、我が国との相互保護が実現している国と地域は、次の通りです。EU[日EU・EPA:平成31年2月1日に発効、日本側95産品(令和4年2月時点)]、英国[日英CEPA:令和3年1月1日発効、日本側47産品(令和3年1月時点)]なお、保護を求めるGIのリストは、追加も行われています。

現在100か国を超える国が独自の制度で地理的表示を保護しています。国によっては、商標制度によって保護している場合もあります。進出する国の地理的表示の保護の状況に応じた適切な保護の仕方については、専門家のアドバイスを求めることをお勧めします。